自分が所属している会社がある日突然「英語を公用化とする」と宣言したら、どうでしょうか?
TOEICのスコアは800点以上取ることを求められ、英語力が求められるレベルに達しない場合は出世も望めません。
一方、就職活動を始める学生たちは、英語力の向上に励みます。いまや、英語力がなければ採用されない時代なのです。
企業がそんな英語公用化の制度を打ち出してから7年が経ちましたが、その企業は今どうなっているのでしょうか?
英語公用化によるメリットはあったのか?それとも、デメリットに悩まされているのか?英語を公用化した企業の今を見ていきましょう。

企業の英語公用化の目的とは?

7年ほど前に、楽天やユニクロをはじめとした企業が、社内の公用語を英語にすると宣言しました。そもそも企業が英語を公用化とした目的とは、何だったのでしょうか?企業が英語を公用化した3つの目的についてお話ししましょう。

グローバル化

英語公用化の大きな目的は、企業の海外展開に備えた社員の英語力強化です。
海外に工場などの製造拠点を置く、海外企業を買収する、海外に支社を置いて販売販路を海外に拡大するなど、海外展開をする上でビジネスレベルの語学力は欠かせません。英語が話せればたいていの国でビジネスができるため、社員の英語力をアップさせるために、英語公用化を推し進めたのです。
しかし、その目的を達成させるためには、海外ビジネスを展開する部署の社員の英語力を高めれば良い話です。その企業が全社的に日常的に英語を公用語にする必要はないわけです。
確かに、社員全体の英語力を高めれば海外ビジネスに向けた機運や実力が全社的に高まり、海外企業との競争に強い企業力をつけることができるかもしれません。もともとは、そこを狙って企業のトップは英語公用化を推し進めたのでしょう。
ところが、「全社的に英語を公用化する」というトップダウンの決断が、社内にひずみを生んでしまったケースもあります。

インターネット化

海外に勤務したり海外の支社や取引先と直接やり取りをしたりしなくても、英語が必要になるケースがあります。それは、インターネットを介した海外ビジネスです。
楽天などのインターネットが重要なツールになっている企業に限らず、インターネットが企業にとっての生命線になっている企業が増えています。英語力があればインターネットを通じてどんな国ともやり取りをすることができますから、どの企業でも英語力が高いことは決して無駄にはなりません。
海外に販路を広げたいならわざわざ海外に支店を置いて販売しなくても、インターネットで海外にモノを売れる時代です。インターネットは世界中につながる情報インフラなので、英語さえできれば世界中に情報を発信することができます。つまり、海外に出向くことなく、日本にいながら海外に販路を拡大することができるということです。
そのため、国内で勤務する社員たちの英語力が強化されれば、インターネットを通じてどんどん海外に進出することができるようになるのです。
近年は、海外の人たちの日本への関心が高まっており、お茶や着物など日本文化が色濃い商品が海外の人に人気です。そんな中、インターネットで日本の商品を買い求める外国人も多く、日本の中小企業がインターネットを通じて海外に販路を広げているケースが増えています。
インターネットを利用することでコストを抑えて海外に進出することができますが、そこに必要なのが社員たちの英語力です。インターネットという世界と簡単につながることができるツールと英語の両方を使うことができれば、海外進出へのハードルはかなり低くなっているのです。

英語が苦手な日本人の意識を変える

英語力があれば海外ビジネスに積極的にチャレンジすることができますが、なぜ全社員に適用される「公用化」が必要だったのでしょうか?
英語力を強化するなら海外ビジネスを手掛ける部署でだけも、問題はないはずです。何も、日本国内のオフィスで日本人同士が英語でコミュニケーションをとる必要はありません。
あえて全社的に英語を「公用化」にした目的は、日本人の英語習得への苦手意識というものが根底にあります。
日本人は外国人に比べて英語などの海外言語を習得することが苦手です。日本は島国という地理的要素から、外国語を積極的に習得する必要はありませんでした。それに比べると、ヨーロッパなどの自国語以外の言語を話す国と陸続きになっている国は、外国語を習得する必要性が高くなっています。外国語を習得する習慣が遠い昔から続けられてきた国と比べると、日本人の外国語を習得する歴史の浅さは歴然としています。
さらに、現在の日本の英語教育の質にも問題があります。日本の義務教育の中での英語教育では、英文法や単語を知識として覚えることはできても英語を会話できるレベルまで習得することは難しくなっています。最近は義務教育の中での英語教育が充実してきたとはいえ、まだまだ海外の語学教育のレベルには至っていません。
これらの要因が重なり、日本人は英語の習得が遅れていると言われています。
そんな中、これから海外進出を目指す企業として社内全体の英語力強化への意識を高めるために、全社的な英語公用化を進めた企業もあります。

企業が英語公用化を推し進めるために取った対応とは?

楽天やユニクロといった大企業は、英語公用化制度を推し進める際にどのような対応をしたのでしょうか?
英語公用化を制度として取り入れた企業が行った社内の対応について、企業ごとにまとめてみました。

楽天

楽天は2012年から社内公用語を英語に完全移行しました。
まず、2013年入社の新入社員は入社するための必須条件としてTOEIC750点の取得が課せられました。TOEIC700点台を取得するということは、ビジネスレベルの英語力を取得しているのと同等の英語力が必要であり、750点以上なら英語を使う仕事もできるレベルです。2015年になるとさらにレベルが上がり、入社時点で800点以上を取得することが求められるようになったのです。
さらに、人事評価にも英語を基準とした厳格な評価を運用しています。楽天では、社員が部課長などの管理職に昇格するためにはTOEIC800点以上が必要です。TOEIC800点以上と言えば、「英語で書かれたインターネットページから、必要な情報・資料を探し収集できる」「職場で発生した問題点について議論をしている同僚の話が理解できる」レベルですから、かなり高いレベルの英語力が必要とされます。
そして、2014年7月から、全社員が800点を取得するという目標が掲げられました。2012年の英語公用化のスタートから段階的にレベルを強化しています。
英語公用化を積極的に推し進めた楽天では、英会話レッスンを受けたり、オンライン教材で勉強をしたりといった手厚い英語力強化のための支援制度もあります。
日常業務においても日報などの社内文書や資料類は全て英語で書かれており、日本人のスタッフ同士の会議でも英語を使うことが義務付けられています。

ファーストリテイリング

2012年から社内公用語が英語になったユニクロを展開するファーストリテイリングでは、本社社員と店長の約3,000人はTOEIC700点以上を取得することを義務付けています。この目標をクリアするまでオンライン学習が義務付けられ、業務に支障が出るケースもあります。
日常業務においては海外支社のスタッフとメールでやり取りをすることもあります。外国人スタッフがいる会議では英語で話すことがありますが、日本人同士の会議の場合は日本語で進めることがほとんどです。

武田薬品工業

国内最大手の製薬会社である武田薬品工業では、2013年の新卒採用から一部部門ですがTOEIC730点以上の取得を採用の目安にしています。
ハイレベルな英語力が求められる部署で働く人には週一回2時間程度の英会話の古部レッスンを受けることができます。そこまでのレベルが求められていない人は、スカイプによる自習プログラムで英語力の強化を図ることもできます。

双日

総合商社の双日では2011年以降、TOEIC730点以上に加えて、TOEIC S&Wのスピーキングスコアを200点満点中130点以上と、ライティングスコア同じく200点満点中140点以上取得することを、海外赴任の必須条件としました。
TOEIC730点に満たない社員には、eラーニング教材を提供していますし、英会話力強化のための社内語学講座も開講しています。また、入社5年までに必ず1~6か月間海外に派遣する制度もあります。英語教育の充実ぶりは、商社ならではです。

英語公用化による企業のメリットとは?

企業が推し進めている英語公用化の仕組みは、企業にどのようなメリットをもたらしているのでしょうか?

海外のスタッフと円滑にコミュニケーションが取れる

企業内の英語力がアップすることにより、海外のスタッフとのコミュニケーションが円滑になります。
今までは通訳や翻訳といったワンステップを置かなければ、社内の日本人スタッフと海外スタッフとコミュニケーションが取れませんでした。一度通訳や翻訳を通すと会話の意図や目的を相手にストレートに伝えづらくなります。また、言葉が通じない状態では、積極的に海外のスタッフとコミュニケーションを取ろうという気持ちが薄れてしまいます。
しかし、社員が英語でコミュニケーションを図れるようになれば、通訳や翻訳によって話したい内容が捻じ曲げられることが無くなります。何より、今まで「言葉が通じない人」だった海外スタッフが、英語を習得することでより近い存在になるというのが一番大きいメリットでしょう。言葉が通じるようになることで気軽にコミュニケーションができるようになり、コミュニケーションが円滑になるのです。

海外の優秀なスタッフを雇用できる

企業内のスタッフが英語を使って仕事ができるようになれば、企業は優秀な海外スタッフを雇うことができます。
英語が公用化するまでは、海外スタッフを雇う際には「日本語が話せる」という条件を採用条件に入れなければなりませんでした。しかし、英語と違い日本語は世界の中ではかなりレアな言語であるため、海外において日本語を習得する人はごく少数に限られています。ですから、優秀な人材でかつ日本語が話せる海外スタッフを集めるのは至難の業です。
ですから、社内で英語が通じるようになることで、優秀な海外スタッフを集めるのはとても簡単になるのです。

グローバル化のスピードが上がる

英語が公用化されていないと、海外支社や海外の企業とのやり取りは英語が使える部署にいるスタッフが行うしかありません。社内に英語を話せるスタッフの数が限られていれば、頻繁に海外支社や企業とのやり取りすることはできません。
「海外関連の案件は、海外事業専門の部署におまかせ」
ということになると、企業内の全ての海外関連の案件を海外事業専門の部署が引き受けることになりますから、動きが遅くなります。
しかし、企業内で英語が公用化されれば、それぞれの部署がここに海外とやり取りをすることができます。ですから、英語の公用化が進むことで、企業全体のグローバル化のスピードが上がるのです。

一方で英語公用化によるデメリットもある

英語公用化によるメリットが存在する一方で、デメリットやリスクも発生している企業もあります。それはどのようなことなのかを、見てみましょう。

「英語しかできない」若手社員の存在

英語力を高める機会が多いのが、若手社員です。特に、入社前にしっかり英語力をつけることができた新入社員は、英語公用化を推し進める企業にとって必要な人材です。
ところが、英語ができるイコール仕事ができるということではありません。英語力はあくまで英語によるコミュニケーションを取るためのツールです。もともと日本語でコミュニケーションが取れなければ、いくら英語力があってもダメなのです。
TOEIC800点以上を取るために英語の勉強を重ねてきた学生たちには、勉強ばかりしてきたいわゆる「がり勉タイプ」が多い傾向があります。このタイプには英語力はあっても「英語力を生かして世界で活躍してやろう!」という気概がありません。海外で活躍したいと考える人たちは「海外でこういう仕事がしたい!」という目的があり、語学の勉強は後からついてくるという人がほとんどです。
もちろん、英語力が高く仕事の能力も高いという人は大勢います。しかし、英語能力の有無を前提に人材を集めると、「英語しかできず、仕事はできないし、コミュニケーションも取れない」というタイプも中にはいます。
一見英語の能力が高く優秀な人材に見えてもいざ仕事をやらせると全然できない、という若手社員に悩まされる企業も多いです。

英語が苦手なベテラン・中堅社員たち

ある日突然「職場内では英語しか使ってはいけない」「TOEICで一定の点数を取らなければ、出世できない」などと言われて一番困ったのは、ベテラン社員や中堅社員たちです。
今まで会社に貢献してきたベテラン社員や中堅社員たちは、「英語公用化宣言」された日を境に英語を勉強することを強いられます。本来の業務をこなしながら、さらに英語の勉強に時間をあてなければなりません。
しかも、若い頃と違い、いまさら英語を覚えなおすのは困難が伴います。それでも、出世のために必死で勉強しなければなりません。会社の方針が変わったのですから、それに対応しなければならないのです。
確かに、ベテラン社員や中堅社員が仕事の実力とともに英語力も身につければ、企業としての競争力が高まりますから、そうできれば一番良いはずです。
しかし、ベテランや中堅の社員たちは責任ある仕事を任されており、仕事に穴をあけることはできません。そこへさらに「英語の勉強」を課せられるわけです。勉強時間が増える分仕事量を減らしてくれる企業はほとんどありません。「今のまま仕事をしながら、さらに英語力を身につけてね」ということになるわけです。
しかも、会社をあげて「英語ができる人材ができる人材」という方針に転換するわけですから、仕事ができても英語ができなければ評価されません。勉強したくてもできないベテラン社員や中堅社員にとっては、つらいことです。

中には、英語の勉強をする気がなく、会社の方針に合わないベテラン社員や中堅社員のリストラが狙いという企業もあります。もともと仕事で実績を残しておらずグローバル化やIT化の波に対応できないのに給料だけは上がっていくベテラン社員や中堅社員を、英語公用化を機に切ってしまおうというわけです。
どちらにせよ、英語が苦手なベテラン社員や中堅社員にとって、極端な英語公用化の流れはつらいもののようです。

英語の勉強時間を取るために社員のプライベート時間が削られる

英語の公用化を推し進める企業が、社員たちの英語の勉強時間をきちんと取ってくれる例はあまりありません。
そもそも、
「今まで通り業務をこなした上で、英語も話せるようになれ」
などというのは、無理な話です。しかし、企業のトップの決断ですから、社員たちは従うしかありません。仕事を今まで通りにこなしながら英語力を上げるということは、プライベートの時間を削って英語を勉強しなければならないということです。
中には、英語の勉強時間を取るために業務時間を減らしたり仕事量を減らしたりすることが許される企業はほとんどありません。
ただでさえ残業時間が多い企業だと、英語公用化を機に人材が他社に流出してしまう、ということもあります。

日常業務で英語など必要ないのに・・・社員の不満が溜まる

全社的に英語を公用化した企業の中にも、普段は日本人のスタッフ同士、日本で仕事をしている社員もいます。そんな環境で英語をしゃべることを強要されても、
「日本人同士でなぜ英語で話さなければならないのか」
「本当に業務に必要なら頑張る気にもなれるが、必要のない英語の勉強をやらされるのがつらい」
という不満が出てくるのは当然と言えます。
「一律、全社的に行われる英語の公用化」の裏には、このような社員の不満も隠されているのです。

まとめ

英語を公用化が始まってから7年、英語公用化によって日本企業の海外進出が進み、海外企業との競争力を身につけたという良い面もありました。
その反面、急激な英語公用化によって生じた企業内のひずみが浮き彫りになってきました。
英語は話せるようになれればそれに越したことはありません。しかし、通常業務をこなしながら日本人が苦手な英語を習得するというのは、なかなか困難なことだといえます。
今後は、どうすれば無理なく日本人が英語を習得しながら仕事を続けていけるのかを考えていくことが必要なのかもしれません。

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