


慶應義塾大学卒。
過去にP&GジャパンやLVMHグループに転職しマーケティングを担当。
独立後はキャリアについて執筆しつつ転職相談やマーケター活動を行っている。
著書に『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』などがある。
Twitterアカウント→『https://twitter.com/10anj10』
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私の結論:転職は積極的にするべき
勤続12年、「役職もあるが月収が14万円しかない……」、そんなトピックが投稿サイト「ガールズちゃんねる」に掲載された。
衝撃はあっという間に他のサイトへ広がり、ホリエモンまでもが「月収14万円?お前が終わってるんだよ」とコメントするに至った。
言い方はきついと感じたろうが、同意見の方も多かったのではないだろうか。たとえスキルがなかろうが、その給与に甘んじる従業員がいる限り、経営者は昇給する理由がない。
「こんな給料じゃ誰も来てくれませんよ」という状態になって初めて、経営陣も動くからだ。
ひどい言い方だが、勤続12年の月給14万円を嘆く人は、同じ経歴を持つ他人の給与も月14万円に抑えている加害者でもある。
逆にどんどん上司へ昇給を相談したり、転職で年収を上げていくことは自分の幸せだけでなく社会全体の給与水準を上げることにもなる。
だから、自分のためであれ、人のためであれ転職はどんどんしたほうがいい……。というのが、実際に転職を2回経験し、年収を2倍以上にしてきた私のスタンスだ。といっても転職期間に私のスキルが爆発的に上がったわけではない。
給与は努力や個人のスキルよりも、業界ごとの相場感や会社の売上額で決まる。私は単に、相場の高い業界へ行き、売上が伸びている会社へ転職したに過ぎないのである。
「努力すれば給与で報われる」というのは夢物語でしかないわけで、月収14万円なら即座に給与相場が高い業界を探し、転職したほうがいい。
転職で失敗しやすい人とは?
ただし、転職しないほうがいい人もいる。
特に「29~32歳で、別業界かつ別職種へ初めて転職する男性」は、私も全力で止めることが多い。これに該当する人は、逃げ道を断って転職する傾向にあるからだ。
一般論として、同業界で、同職種のまま転職すると楽に年収を上げやすい。たとえば資生堂の経理だった人が、カネボウの経理へ転職してもそこまで負荷は大きくないはずだ。
前職と業務内容がほぼ変わらないためである。前職のスキルも評価されやすいため、順調にステップアップできることが多い。
転職で業界や職種を変えると、難易度は少し上がる。業界を飛び越えると商慣習が変わるため、前職の勘所が働かないことも多いからだ。
たとえば私は洗剤などの日用品を扱うメーカーから、ラグジュアリーブランドを扱うメーカーへ転職した。職種こそ同じマーケティングだったが、単価100円と1億円では売るための戦略が大きく異なる。現場で新しく学ぶことが多く、自分のふがいなさに苦しんだ。
ただし、冒頭の通り業界を飛び越えて転職すると「転職した業界の年収相場」に年収が変わるため、もともと給与水準が低い業界にいた人にとっては、年収アップのチャンスになる。
たとえばメーカーから広告代理店への転職、飲食店の店長から飲食雑誌社への転職などは、業界を飛び越えて年収アップが狙える一例だ。
ただし、これまでのスキルが通用しづらいため転職でしんどさを味わいやすい。「一か八か、鬱になったら前いた業界に出戻ろう」と覚悟して飛び込むのが、別業界や別職種である。
そして最後に、業界も職種も前職と無関係の転職は、一番負荷がかかる。なにしろ、新卒と知識レベルが変わらないからだ。前職とあまりに違う文化で苦しみ、鬱になる人も少なくない。
だが、29~32歳ごろになって「やりたいことに目覚めた!」と思い至った人間は、特に別職種・別業界へ飛び込んでしまいやすいのだ。
「本当にやりたいことを見つけた」と未経験業界への転職で失踪した29歳
ある男性が、29歳でコンサルティングファームへ入社した。慶應義塾大学を卒業後、貿易会社へ勤務。それからコンサルティングファームへの転職を果たした。
貿易会社では信頼も厚く、上司から大きな仕事を任されてもいた。その一方で旧態依然とした社風に限界を感じ「もっと自分の力を伸ばしたい」とコンサルティングファームへ挑戦したのだ。
そして、彼は1年後に「失踪」に近い形で退職した。そして私は、その前段階で彼の愚痴を聞きながら、あやうい気配は感じ取っていた。
――上司からのパワハラがひどい。書類を机に叩きつけられて「なんでこのレベルで書類出したの? もっと準備できることあったよね?」と深夜に詰められる。
子どもが風邪をひいても、21時に帰らせてもらえない。成長できるからと説明会で聞いたからコンサルになったが、これではただの人権侵害だ。
彼は上司に憤慨していたが、これはコンサルティングファームでは普通の労働環境だ。彼は悪くないが、周囲からは「コンサルティングファームは精神と時の部屋だ。
上司にいくらなじられても、しがみついて教えてくださいと乞う者だけが成長できる。まさか、家庭を犠牲にする覚悟もなく業界に来る人なんていないはずだ」と驚かれただろう。
業界や職種を飛び越えると、こういった「それぞれが持つ常識のぶつかり合い」が起きる。まさか……と会社も転職者も驚きながら、鬱をわずらったり、体を壊したりする悲劇が後を絶たない。
だからこそ転職では退路を必ず確保せねばならない。
ところが、29~32歳で「やりたいことに目覚めた!」となるエウレカ男子は、退路を確保する前に飛び込んでは散っていく。
理由なく安月給に甘んじるのもどうかと思うが、退路なき転職は同じくらい危険だ。
では、退路のある転職とはどういうものか。答えは「失敗しても戻れる場所がある」転職だ。いまの会社が出戻りオーライなら、転職でリスクをとってもいい。
また、資格があり失職しても食べていけるなら、どんな進路も自由だ。リスクを取ってでも別業界へ行きたいなら、まず同じ職種のポジションを探したほうがいい。
さらにここからは、リスクを下げながら転職する小技を紹介したい。
トイアンナが教える、転職のリスクを下げるコツ
コツ1:副業で仕事を始める
いきなり転職するのではなく、副業で経験を積もう。副業で月20万くらい稼げるようになれば、転職先でも経験者に近くなり、うまくいきやすい。
ただし年20万以上の収入があると、確定申告せねばならなくなる。副業禁止の会社でもバレやすくなるため売上額に注意しよう。
コツ2:転職前にプロに弟子入りする
業界の売上に対する勘所をつかむために、プロに弟子入りするのも手だ。
たとえば未経験から飲食店をやりたいなら、飲食店に丁稚奉公やアルバイトででも、1度弟子入りしたほうがいい。
未経験の飲食店開業だと「1日4回転、客単価6,000円」など絵に描いた餅に近い計画書を作ってしまえるからだ。
学ぶのは座学のセミナーでもいいが、現場に即した経験が詰めるセミナーを選ぼう。ただし安月給にあえぐ転職希望者は情報商材のカモなので、講座を選ぶときは慎重に。
コツ3:2度目の転職を視野に入れる
転職を人生で1度と考えず、2度、3度と長期計画をもとに考えよう。万が一次の会社がだめだった場合、どこへ行くか考えておくのだ。
今の会社に出戻りシステムがあるか確認したり、実際に辞めた人のキャリアを聞きにいったりするだけでいい。周りに辞めた友人がいるなら、ぜひ話を聞いてみてほしい。
転職先は石橋を叩いて渡るつもりで探せ。安全な転職方法とは
ここまで準備ができたら、実際に転職の手続きを始めよう。といっても、いきなり検索エンジンで求人を探さないように。確実に夢を実現したいなら、より安全な方法で転職するべきだ。ここからは、失敗しづらい転職方法をいくつか紹介する。
安全な転職方法1:リファラルによる転職
リファラルとは、友人や同僚の口利きによる転職のこと。ようは人づてに紹介してもらう転職だ。
外資系企業はリファラル転職をすると社員に謝礼も支払わられることから、さかんにリファラル転職が行われる。
また、地方でも口利きによる転職は多い。
リファラルは自分の強み・弱みを理解してもらったうえで転職できる反面、転職後に「これじゃない」と思っても、紹介してもらった手前辞めづらい欠点がある。
安全な転職方法2:未経験可を大々的にうたう業界への転職
未経験者歓迎をうたう企業では、他業種・他業種からの転職者も多く受け入れている。
研修が転職者向けに準備されている可能性も高く「1年目はつらかったけれど、仲間がたくさんいたから乗り越えられる」職場になりやすい。
だが、「なぜ未経験の人でもいいから、そんなに募集するのか?」は考えておいたほうがいい。たいていの場合、そういう職場は激務薄給である。
2社目は経験を積むための転職と割り切って、3社目を見据えて飛び込むならありだろう。
安全な転職方法3:転職エージェントを使う
ツテがなく、未経験可の求人は怖い……。そういう方は、転職エージェントと契約しておこう。
転職エージェントとは、1対1であなたに合う求人を探してくれるサービスだ。費用を採用する会社側が払うため、無料でエージェントに頼ることができる。また、それだけの資金力を採用に割ける企業がそろうため、少なくとも賃金未払いをかますようなブラック企業は避けられる。
ただし、できれば転職エージェントは3社ほど契約したい。エージェントごとに付き合いのある企業が異なるからだ。
もし友人に転職経験者がいるなら、いいエージェントとつながっている可能性も高いのでぜひ紹介してもらおう。
というのも転職エージェントは当たり外れが大きい。初回の面談で「親身になってくれない」「自分の要望を無視した案件ばかり出してくる」なら即座に契約を止めたほうがいい。
人生の決断に関わるのだから、多少わがままでも素直になろう。
たとえば私は転職エージェント2社で提示された年収に2.5倍の差がついたことがある。
最初に行った某エージェントでは、年収300万円を提示された。当時私は20代。日系大手の案件を多く抱えるそのエージェントでは「女性で、かつ若すぎるから」という理由で、いい案件を私に出せなかったのだ。
しかし、翌日訪れた別のエージェントでは年収800万の案件がでてきた。そこは外資やベンチャーが多く、スキルで年収を測る企業を多く抱えていたからだ。
終身雇用の有無、福利厚生の差もあるためいずれがいいとは言わないが、エージェントは複数契約するに越したことはない。
転職は大きな決断だからこそ「安全策」を複数とろう
ここまでご覧いただいた方にも、もう「安全に転職する方法」が見えてきたと思う。今いる業界の年収が安すぎることに気づいた、やりたいことが見つかった……どれも幸運な気づきだと思う。
ぜひ、これから楽しく暮らせる年収を手に入れ、やりたいことを実現してほしい。
その一方で、むやみな転職は悲劇を生む。だからこそ安全策を複数とり、成功しやすい方法を模索してもらえればうれしい。
この記事を書いた人:トイアンナ

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