人工の歯や差し歯を作る技術専門職といえば歯科技工士ですが、歯科技工士の労働実態や転職事情はどのようになっているのでしょうか。

意外と知られていない歯科技工士の労働状況や転職事情について詳しくリポート致します。

歯科技工士の仕事内容

歯科技工士は歯科医師による指示のもと、歯科で治療を受けている患者に適合するクラウン(歯への被せ物)や差し歯、入れ歯の他、歯並びを矯正する器具などを製作するのが主な仕事です。

歯科技工士は歯科医院に直接雇用される場合もありますが、全体の内7割前後は全国に約1万9千ヶ所ある歯科技工所に勤務しています。

具体的な仕事の流れをクラウンを例にして説明すると、歯科医師が患者の歯を削るなどした後歯の歯型を取り、その歯型模型を取引している歯科技工所へ渡します。

歯科技工士はその歯型をもとにして削られた後の歯にきれいに収まるよう、素材となる金属やセラミックなどを専用器具を使用して加工、製作し、完成したら発注元の歯科医院へ納入します。

患者の治療スケジュールに合わせて予め納期が定められていますので、仕事が重なった場合には納期に間に合わせるために長時間労働となる場合が頻繁に生じます。

歯科技工士の数や年齢構成

歯科技工士の数は全国で約3万4千人程度ですが、この数は年々減少傾向にあります。

特に若年層歯科技工士の減少が深刻で、歯科技工士業界も高齢化が年々進んでいます。

具体的には、29歳までの歯科技工士の全体に占める割合は約12%に対し、50歳以上の割合は全体の約32%を占めています。

少子高齢化という日本の人口構造上の問題もありますが、若年層が歯科技工士に就業することを敬遠したり、就職してもすぐに離職してしまったりすることが若年層減少の最も大きな要因となっています。

歯科技工士の1日のスケジュールや勤務時間は?

では歯科技工士の1日のスケジュールと勤務時間状況を確認してみましょう。

歯科技工士の1日のスケジュール例

8:00 出勤
8:30 受注した仕事内容の確認や作業の準備
9:00 製作業務
12:00 昼休み
13:00 午後の業務内容や訪問先歯科医院の確認
13:30 訪問先歯科医院への納品と歯型模型の受け取り、患者からの要望ヒアリング等
15:00 技工所に戻っての製作業務
※20:00~ 帰宅

※歯科技工士はお伝えしたとおり、納期までに制作物を歯科医院に納める必要があります。

発注が重なったり、大変手間がかかる制作物だったりすれば、スケジュール例のような20時台では帰宅できないこともあり、作業が深夜まで及ぶことはザラです。

歯科技工士の年収は?

歯科技工士は過酷な労働を強いられていますが、年収面ではどのようなことが言えるのでしょうか。

平成27年度賃金構造基本統計調査(厚生労働省実施)によりますと、歯科技工士全体の平均年収は約427万円です。

この金額だけをみればサラリーマンの平均年収(420万円前後)とほぼ変わらない、もしくは少し良いぐらいの水準ですが、年代別でみた場合、特に若年層の年収は大変厳しい状況におかれています。

同じく平成27年の賃金構造基本統計調査から年代別の平均年収を導き出した場合

●29歳以下:約270万円

●50歳~59歳:約605万円

という結果となります。

統計調査対象となっている各年代別の母数にバラツキや偏りがあるため、厚生労働省の調査結果ではあっても実態を完璧に反映しているとまでは言えないこと、多少の誤差を含んでいることは予めご留意ください。

その上で、このデータからわかるとおり、20代以下は平均年収では300万円にも達していません。

一方、50代は平均年収605万円となっており、その差は300万円以上もあります。

更に20歳~24歳の年代別でみた場合、平均年収は「約237万円」という水準まで下がります。

237万円を単純月額換算すると一月あたり約19.8万円、即ち20万円を切ります。

労働時間数や労働日数が短ければまだ受忍できるかも知れませんが、休日返上は当たり前、1日あたり5時間超の残業は当たり前と言われる状況でこうした金額です。

月間25日、1日10時間労働と仮定しても時給換算では800円を切ることになります。

つまり若年層の歯科技工士はワ-キングプアの状況と言ってよいほど、過酷な労働条件となっています。

こうした状況が若年歯科技工士の就業者数の減少と共に、7割前後とも言われている若年層歯科技工士の高い離職率の大きな原因になっていることは概ね間違いありません。

歯科技工士のあるある転職理由・体験談を紹介

歯科技工士は特に若年層の離職率が高いことがわかりましたが、生活がありますので離職してそのまま無職になるのではなく、条件の良い歯科技工所へ転職したり、サラリーマンなどへ転職したりするケースがほとんどです。

そこでなぜ転職に踏み切ったのか、その理由について歯科技工士の声を集めてみました。

その中から、歯科技工士の皆様方なら「あるある」と思える3つの事例をご紹介することに致します。

「このままではまともな生活が送れない!」(A氏/トラックドライバーへ転職)


「歯科技工士が大変だとは聞いていたけど、まともな日常生活を送ることさえできなくなるとは思っていませんでした。
休日出勤は当たり前、月の残業時間は150時間超えが当たり前。月によっては250時間ぐらい残業になったこともありました。
それでも患者さんのためにと考えて必死に耐えて頑張ってましたが、歯科技工は緻密さや正確さがむちゃくちゃ要求される仕事なんです。
長時間連続での作業を終えると放心状態のようになり・・・単に疲れたといったレベルじゃなく、1日の作業が終わった後は物を考えることができないような状態になっていました。
例えばある日、仕事がようやく終わって帰りがけにコンビニによってレジに並んだら、自分が財布を持っていないことに気付きました。
作業着のまま帰路についていたようで、私服に着替えることすら忘れてしまっていたのです。
これではまともな生活を送れないと考え、歯科技工士を辞めることを決意しました。」

「業務独占の国家資格なのに時給500円未満!フリーターの方がよっぽどマシ!」(B氏サラリーマンへ転職)

「世のサラリーマンの方々は休日出勤したら休日出勤手当、残業したら残業手当という素敵なお手当がもらえることなど、サラリーマンへ転職するまでは知りませんでした。
歯科技工士は残業は勿論、休日出勤しても手当なんかもらえません。
仕事の納期が最優先であり、納品できてなんぼの仕事なので残業中は残業しているという感覚すら持てなくなりました。
とにかくプレッシャーとの戦いでしかなかった・・・・
それでも一杯お給料を貰えているのであれば、歯科技工士を続けることができたかも知れません。
ところがある日、ふと自分の時給ってどのくらいになるのだろうと気になったので、自分の労働時間数ともらっている給料から時給を計算してみたんですよ。
そうしたらその額を見てあまりにショックで歯科技工士を続けようという意欲がプツッリと切れてしまいました。
自分の場合、時給にしたら500円を切っていたんですよ。正確な額は言いたくありませんが400円台だったということです。
世間ではフリーターの方を気の毒に見る向きがありますが、全国平均での最低時給が823円ですからその最低時給すら大きく下回っている歯科技工士はなんなだと・・・
フリーターの方は平均ですが最低でも823円以上が保証されている訳ですから、フリーターの方々の方がよっぽど恵まれていると言えますよね。
この結果を知ってしまった瞬間、歯科技工士は長く続ける職業ではないと悟りました。
現在サラリーマンになって真っ当な給与や手当を頂けるようになり、幸福を感じています。」

「歯科技工士は歯科医の奴隷ではない!」(C氏/転職活動中)

「歯科技工士が薄給・激務であることは理解していましたが、患者さんに喜んでもらえる物を作りたいという使命感があったので辞めることはほとんど考えていませんでした。
しかし、私が我慢できなかったのは歯科医師の対応です。
彼らは私達を下僕のようにしか考えていません。
細かい部分まで口出しするは、ダメ出ししてくるは、それでいて費用は限界まで削ろうとするわ・・・。
立場上歯科医師に従わなければならないことはわかっていますし、歯科医師はお客さんのような立場でもあるから逆らいたくとも逆らえないですよ。
それを知ってか、高圧的に上から目線でアレコレつつかれ、やり直しを命じられ、材料費がムダになってもこちら側が被り、もらえる報酬はスズメの涙。
たまったものではありません。
歯科医師にもいろんなタイプがいるだろうから、勤務先の技工所を変えれば取引している歯科医師も変わるので、そうすれば状況は改善するだろうと思って他の技工所へ転職しました。
けど、甘かったです。
中には良心的な歯科医師もいたが、歯科医師全体が経営に余裕がないみたいで、言葉は柔らかいけど無茶な要求をされる状況はどこへ行ってもたいして変わりませんでした。
こうした状況が嫌になり、私は歯科技工士の世界から足を洗う決断をしました。
声を大にして言いたい。歯科技工士は歯科医師の奴隷ではないと!」

歯科技工士の転職回数とその実態


過酷な労働環境と低賃金により、歯科技工士にとって転職は「当たり前」の状況になっています。

統計的なデータがある訳ではありませんが、歯科技工士を専門的にサポートしてきた転職エージェントの話によりますと20代で転職経験がない方はまずいないと言います。

年齢を重ねるごとに転職経験率は高まり、20代後半に至っては感覚的に9割近くは転職を経験があるとのことです。

そのため、30代を迎えた歯科技工士が転職する場合には「初めて転職に臨む」というケースがほとんどなく、大半が2回め3回目という状況です。

多い方では4~5回目の転職経験を重ねた方も見られるそうです。

転職回数で不利になる?

サラリーマンの場合では転職回数が重なれば重なるほど一般的には不利になってきますが、歯科技工士の場合はどうでしょうか。

歯科技工士の場合は次の二つのケースに分けて考える必要があります。

歯科技工士から歯科技工士への転職

歯科技工士から歯科技工士への転職なら、歯科技工所も歯科医院側もある程度理解していますので2~3回程度の転職回数ならハンディになることはあまりありません。

それでも4~5回以上になると、受け入れる側が「またすぐに辞めてしまうのでは」といった警戒感が働きますので多少慎重にはなります。

しかしながら特に若年層の歯科技工士は減少傾向にあり、若手不足が業界全体で深刻な状況になっていますので、若年層に限れば転職回数に目をつぶる傾向があります。

有利になるとは言えませんが、多少転職回数が重なっても歯科技工士から歯科技工士への転職ならそれほど影響はないと言えます。

歯科技工士から他の職種への転職

この場合は一般的に不利になると考えた方が良いでしょう。

他業界の方々は、歯科技工士業界では転職が当たり前の状況になっていることを殆ど知りません。

そのため、転職回数が多いと「仕事が続かない人物」といった評価になりがちです。

従って他業界へ転職をはかる場合には、人材不足が深刻なドライバー業界や介護業界といった業種を重点的に狙うなどの対策が必要になってきます。