ワタミがブラック企業からまさかのホワイト企業になるまでの全過程

ワタミがブラック企業からまさかのホワイト企業になるまでの全過程

「ブラック企業」=「ワタミ」というくらい、ブラック企業の代名詞であった「ワタミ」(ワタミ株式会社)がどうやらホワイト企業になっているようなんです。
正直驚きましたが、様々な要因が重なり、「脱ブラック」に成功したともいえそうです。

今回は、あの「ワタミ」が外食業界の中でも抜きん出たホワイト企業になるまでの全過程を追ってみたいと思います。
そこを考察することで、他のブラック企業のホワイト化の可否も見えてくるはずです。

ワタミが日本を代表するブラック企業からホワイト企業になった(とされる)のは、徹底的な外部機関によるチェック、パワハラ的な慣習の追放、「渡邉イズム」の否定、ワタミとバレない店舗名への変更、労働組合の容認などがいい方向に働いた結果のようです。

ワタミの「ホワイト企業化」について知るメリットはこれ!

  • どん底まで追い込まれた企業の反転攻勢の過程を知れます
  • 「脱ブラック」のための方策は他企業にも応用できます
  • ブラック企業だったゆえんは何か知ることができます
  • 一度付いた負のイメージをなかなかぬぐえない人もいます
  • 実は「再ブラック化」するかもしれません。なぜでしょうか? その理由を知ることができます

輝かしい(!?)ブラック企業大賞 なぜワタミはブラックと断罪されたのか?

ブラック企業大賞

「ワタミ=ブラック」を印象付けたのは2008年に起きた入社3か月目の社員の自殺、および2012年の「神奈川労働者災害補償保険審査官」による「長時間労働による精神障害が原因」に労災認定からです。

そして、2013年に創業者である渡邉美樹元会長が参議院議員に当選したことから「公人」となり、批判が一気に集中します。

「国会議員になる人間が経営していた会社がここまでブラックとはけしからん!」

いくら叩いてもいい「サンドバッグ」にワタミはなってしまいました。

その後、2013年の「ブラック企業大賞 『大賞』」を受賞してしまいます。
名実ともに「ブラックオブブラック」「ブラック企業=ワタミ」というイメージが広く世間に共有されることになります。

ブラック企業大賞2013 ノミネート企業8社とノミネート内容

今年のブラック企業対象はこちらで書いてます↓

悪いカリスマによる宗教的経営が拒否反応を起こす

ブラック企業大賞を受賞した理由は以下の通りです。

  • 新人社員に月141時間の残業を強いる(当然「過労死ライン」は余裕で突破)
  • 労災認定後も責任を認めない
  • 渡邉元会長は謝罪に応じない
  • 会社全体の不誠実な対応
  • 休日出勤
  • 強制的なボランティア活動
  • 早朝研修
  • 給料から天引きで買わされた渡邉元会長らの著書の感想文提出
  • 社訓の絶唱等

要は、不誠実なブラック企業だけではなく、「渡邉教」ともいえる創業者の個人崇拝を強いる会社で、気持ち悪いんです。

しかも、渡邉元会長のあのパワハラ上司然とした、キャラクターも相まって、他の企業以上に叩かれやすい要素が揃っていました。
全然謙虚ではなく「24時間働けてありがたいだろう」という歪んだ考えがあちこちから出ていました。

業績が急落するワタミ

ワタミの業績が急落
そういうこともあり、ワタミの業績は悪化します。

ブラック企業大賞受賞後の、2013~2014の2年間で、2期連続の巨額最終赤字を計上し、320億円だった純資産が、わずか2年間で102億円まで減り、資本が3分の1になってしまいます。

このころには「破綻」や「倒産」をするのではないか、という経済誌や経済ジャーナリストの憶測も出るようになります。

ワタミはいくつかの居酒屋を出店していましたが、特に売り上げが悪化したのが、居酒屋「和民」(前年比4.4%減)居酒屋「わたみん家」(前年比4.2%減)でした。

そう「ワタミ」という名前がつく居酒屋、ワタミが経営しているとわかるお店は、その時点でお客から拒否反応が出て、選択肢から外れます。

「ワタミ」という響きそのものが、利用者にとっては嫌悪感を与えるものになってしまったのです。

筆者もこのころから「ワタミ」という名前がつくお店は積極的に避けるようになりました。悪の組織に落とすお金はありません。

それから3年 ワタミがホワイト化した!?

それから3年、こういうツイートがありました。

ツイートした新田龍さんは、ブラック企業アナリスト、人事コンサルタントとして有名な人で、『ワタミの失敗 「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』など、ワタミやブラック企業についての著書もあります。

当然、ワタミは大嫌いで、こんなブラック企業は許せないはず。
そういうアンチブラック企業の専門家が、「ワタミはホワイト企業になった」と発信しています。

ということは本当にワタミがホワイト企業化したということでしょうか?

業績が回復するワタミ

実は、ここ最近、ワタミ株式会社の業績が急回復しています。

本業の居酒屋事業(ほかにもワタミは介護とかやっていますがそれを除外)に限ると

2016年△1億900万円(赤字)
2017年5億2500万円(黒字)

赤字から黒字へ、完全に復活しています。

ワタミ、客離れ終了で完全復活寸前…その「目立たない要因」、鳥貴族と真逆戦略

ただ、これだけでは、単にさらに労働者を搾取して、売り上げを増やしただけ、ととらえる人もいるでしょう。実際は、社員やアルバイトの労働者の待遇も大幅に改善しているようなのです。

ホワイト化のためにワタミがやったこと

ホワイト化のためにワタミがやったこと

悪化し、地に落ちたイメージを回復し、「ワタミ」という言葉に拒否反応を示すお客さんを取り戻し、従業員の待遇を改善するために、ワタミは様々なことを行いました。

1.ブラック労働環境の排除

奴隷フルコースの排除

いうまでもなく、過去のワタミは、ブラック企業そのままに

  1. 長時間労働(夜勤含む)
  2. 所定の休憩時間が取得できない
  3. 有給休暇が取得できない
  4. 休日出勤の強要
  5. サービス残業

の「奴隷フルコース」でした。

そうした環境が過労死や労災(精神疾患)、高い離職率につながっていました。
そうした環境を、「業務改善委員会」や「労務戦略課」によって改善していきます。

「社員の労働時間の厳正な管理・チェック」、「業務に関する相談窓口の設置」、「上司への評価制度」、「お店の営業時間の短縮」などによって過重労働を削減していきます。

この取り組みが成果を結び、有給休暇を含む休日数や残業時間が10%~20%程度短縮されました。

まぁ、まだまだのような気もしますが・・。

2.労働組合の結成

労働組合の結成

社員は奴隷として扱われていた理由として、ワタミには労働組合がありませんでした。有志の社員が団結しようにもワタミ側が圧力をかけて阻止します(本当は組合の結成は労働者の権利なのですが、なにせブラック企業なので有形無形の圧力をワタミ側がかけます)。

ようやく労働組合が結成され(ワタミが圧力をかけなくなり)、経営陣と対等に話し合いができるようになりました。

3.渡邉イズムの否定

パワハラ体質を一掃

渡邉元会長の「24時間休みなく働け」「働かせていただいているだけでもありがたいと思え」というような旧日本軍も真っ青の「月月火水木金金」のような考えを否定し、パワハラ体質を一掃します。

また、渡邉元会長の経営への口出しも拒否するようになりました。向こうは現職の国会議員です。いろいろな圧力がかかると大変なことになります。

4.店名からの「ワタミ隠し」

店名からのワタミ隠し

「ワタミ」という響きが完全にマイナスイメージとなっていたため、「和民」「わたみんん家」「坐・和民」などの「ワタミ」という名前が入っているお店を、別の名前のお店に変えて行きます。いわば「ワタミ隠し」です。

具体的には既存店舗を「三代目鳥メロ」と「ミライザカ」に変えていきます。
そう、最近増えてきている、この2つのお店はワタミなんです。気付かない人は全く気付きませんよね。前者は「鳥貴族」と同じイメージを持つかもしれず、安くて(そこそこ)おいしい印象を持ちます。

居酒屋の経営母体まで調べる人はごく少数です。だから、この「ワタミ隠し」は成功します。

1~4の取り組みの結果として、2015年は21.6%だったワタミの社員の離職率が、15.8%(16年)←8.7%(17年)と年を追うごとに大幅に改善していて、辞めなくなっています。

飲食サービス業の平均離職率は約30.0%(17年度雇用動向調査より)ですから、労働環境的には圧倒的にホワイトなんです。

ワタミはホワイトになったのか口コミ、評判をチェック

SNS上でワタミのイメージが回復しているのか、いくつか口コミを拾ってみました。

絶賛一辺倒化というとそうではなく

「あのワタミのことだから裏があるに違いない」
「信用できない。辞められないだけでは?」
と疑問の声の方が大きいです。

それほどまでにワタミへのイメージは依然として悪く、我々が受けた「ブラック=ワタミ」の印象は強烈だということです。

外食産業に人が足りないのは事実で、「バイトテロ」もそれに起因しています。ただ、居酒屋チェーンでまだそういうのは表に出てきていないので(ないはずはないのですが)、まともな労務管理ができているのかもしれません。

【悲報】懸念材料 渡邉元会長が復帰する!?

ワタミが再びブラック企業に!?
しかし、ホワイト化が事実だったとしても、大きな懸念材料があります。

あの渡邉元会長が、2019年の参議院選挙に出ずに議員を引退し、また現場に戻ってくるかもしれません。

渡邉美樹が政界引退 元祖ポエム企業「ワタミ」はいかにして時代に乗り遅れたのか

現在、ワタミの経営からは離れていますが、良くも悪くも創業者としてカリスマがある人です。ワタミのホワイト化は「渡邉イズム」の脱却が重要なポイントでしたが、また彼の思想が経営に入ると元の木阿弥になってしまいます。

このような危惧も当然あり、渡邉元会長は自身の考え方を変えたとは到底思えません(パワハラ上等ブラック当然)。

なぜなら、昨年の「働き方改革」の関連法審議の時に、まったく考え方が変わっていないことが明らかな発言をしているからです。

ワタミ過労死遺族「何の反省もしていない」、渡邉美樹氏の「週休7日が幸せなのか」発言に抗議|弁護士ドットコム

過労死遺族に「仕事は生きがい」と語った渡邉美樹氏に非難殺到 「地獄のやりとり」「なぜ社員を過労死させたか理解していない」|キャリコネニュース

まったく「ワタミの価値観」を変えていません。

そういう人が、ワタミの、あるいは他社であっても経営し「再ブラック化」する可能性は否定できないというのが事実です。

ブラック企業、あるいはホワイト企業が、属人的な要素でそうなるのか、それとも、社内システムを整えれば大丈夫なのか、今後のワタミが試金石になりそうです。

ともかく、このままホワイト企業になり、ブラックイメージがこびりついている外食業界を変えてくれることを期待したいですね。

ワタミがブラック企業からまさかのホワイト企業になるまで まとめ

まとめ

  • ブラックな労働環境が知れ渡り、ワタミの業績やイメージは地に落ちた
  • 「ブラック企業=ワタミ」という公式が多くの人の頭に固定化した
  • それらを払拭するためにワタミは大胆な改革を実施した
  • 創業者の思想の排除、店名からの「ワタミ隠し」、営業時間の削減などありとあらゆることを外部委員の手を入れて実現した
  • ブラック企業専門家が「ワタミはホワイト化した」という見解を出し、数字も改善しているが疑問の声もある
  • 創業者が戻ってくるかもしれず、その場合どうなるか注目せざるを得ない