マタハラの相談先の紹介や法律について【職場で起きた事例付き】

仕事におけるマタハラとは?解雇されるケースなどの相談先や対策を法律・事例で学ぶ

「マタハラ」という言葉を知っていますか?
最近、「セクハラ」や「パワハラ」に加えて職場で問題になっている「ハラスメント」、つまり「嫌がらせ」や「不利益」なのですが、マタハラの場合、マタニティ(妊婦さん)であること、つまり妊娠していることや出産することに対して受けるハラスメントになります。

今回は職場でのマタハラについて、いろいろな角度から考えてみたいと思います。

 

マタハラによる不利益な扱い

不利益な扱い

解雇・雇い止め・契約更新回数引き下げ

「妊娠したから辞めてもらう」
「(派遣社員の人に)次の更新はしないから」

雇用形態の変更

正社員からパートや非正規雇用に一方的に転換させる

降格・昇格や昇進の際の不利益となる評価

出産したから昇進させない。
降格させる。

減給・賞与などの算定における不利益

出勤しているのにボーナスが減額される

不利益となる配置転換・自宅待機命令

閑職へ飛ばされる

仕事をさせない・雑務ばかりさせる

「追い出し部屋」のようなところに配置させる

こうしたことを、「妊娠・出産・育休等の事由を「契機として(おおよそ1年以内)」不利益取扱いが行われた場合、マタハラとなります。

マタハラ的言動はこんな感じ

パワハラ、セクハラ的言動

職務上の扱いだけではなく、上司や同僚から妊娠や出産について精神的・肉体的な苦痛を受けることもマタハラになります。

言葉での攻撃を受ける

「いいご身分だな」
「こっちは休めないのよ、妊婦サマ!」

攻撃的な態度を取られる

妊婦さんの顔を見ていやらしく笑う
「あなたの分までやるから残業続きですよ」と言われる

体に負担がかかる仕事をさせられる

他にできる人がいるのに、ざわざわ力仕事をさせる。
長時間の立ち仕事をさせる。

近くでタバコを吸われる

分煙されていない職場で、わざわざ隣でタバコを吸う。

特に、肉体的負荷やたばこの煙は、妊婦さんやお腹の赤ちゃんに直接的なダメージを与えます。
もはや「ハラスメント」の段階ではなく、傷害にも匹敵する危険で悪質な行為だと言えるでしょう。

マタハラを防ぐための法律

マタハラを防ぐための法律

マタハラは

  • 男女雇用機会均等法
  • 育児・介護休業法

によって禁止されていますが、「男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法の解釈通達」や「改正 育児・介護休業法」(平成29年)によって、以前よりさらに深く内容が解釈され、より妊婦さんの実情に合った保護策が求められるようになりました。

セクハラやパワハラと同様に、妊婦さんであることを理由に不利益な扱いをしたり、辞める圧力をかけたりするとマタハラとして法に触れ、事業主は違法行為を行い、黙認していることになり、受けた人は裁判を起こせることになります。

産前産後に認められている権利

男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では産前・産後の権利として以下のようなことが認められています。これは法的な権利であり、これを妨げることはマタハラであると同時に違法行為にもなります。

出産前(産前)の権利

「母性健康管理措置」とも言われてます。
妊婦さんは自分のお腹にもう一つの命を宿しています。

無理をしたら流産のリスクがあるだけでなく、妊婦さん自身の命にもかかわります。
最大限母体を守ることが大切です。

  • 勤務時間内に有給を取らずに妊婦健診を受けられる
  • 勤務時間の短縮や時差通勤(出勤時間を遅らせる)ことができる
  • 自分の体に負担がかかりにくい業務への転換・異動を希望できる
  • 休日出勤・残業・夜勤を拒否できる(してもいい)
  • 危険有害業務に就くことが禁止される

自分から「負担が大きいので別の部署に異動したい」の申し出るのはOKです。

産前(出産直前)と産後の権利

出産前の権利と似ています

  • 勤務時間内に有給を取らずに妊婦、妊産婦健診を受けられる
  • 産休・育休が取れる
  • 休業明けは休業前と同じ条件で働くことができる
  • 子どもが一歳になるまで、「育児時間」が請求できる
  • 勤務時間の短縮や時差通勤(出勤時間を遅らせる)ことができる
  • 休日出勤・残業・夜勤を拒否できる(してもいい)
  • 危険有害業務に就くことが禁止される

出産後も勤務時間中に検診を受けることができます。
出産は命を懸けた大仕事であり、元の体調に戻るには時間がかかるからです。

会社に保育園が付属していたり、近所の保育園や親に預けている人は「育児時間」を活用して赤ちゃんの面倒を見ることができます(母乳をあげたりもできるはずです)。

雇用契約上の権利

産前産後は自由に転職活動などをすることができません。
会社はその間、妊婦さん(従業員)の身分を保障する義務があります。

  • 産休中とその後の30日間はいかなる理由があっても解雇されない
  • 妊娠中と産後1年間は正当な理由がなければ解雇されない
  • 妊娠や出産を理由とする不利益を受けない
三番目は「マタハラの禁止」ですね。
妊娠出産ではなく、うつ病などの精神疾患の人や内臓疾患で休んでいる人にはこの規定はありません。

病気が治らない人に退職勧告することはありますが、妊娠出産について、これは「ない」と断言できます(やったら違法)。

マタハラ裁判の事例、判例

職場におけるマタハラは、上司だけではなく同僚や同性から受けることも多いようです。

マタハラ事例

こういうことが職場で行われていませんか?これは立派なマタハラに該当します。

①上司→部下

「前のお子さんを出産してからまだ一年経っていないのにまた妊娠したのか・・・これではまた誰かに引き継がせないといけないよ。あなたに継続的な仕事はさせられない。正社員から契約社員になってくれないか?」

降格や雇用形態の転換をしようとしています。
「また妊娠したのか」はセクハラにも該当する可能性があり、妊娠したのが悪いことみたいですね。妊婦さんが受けるストレスはいかばかりでしょうか?

②同僚→同僚

マタハラ「○○さん妊娠したんだって。○○さん、私より後輩だし年下だよね。順番は守ろうよ・・・」

最近「妊娠順番ルール」という言葉が出てきています。病院(看護師)や保育園(保育士)、幼稚園(幼稚園教諭)など女性の割合が多い職場で「暗黙のルール」として存在すると話題になっていることです。

要は

  • 先輩、年上を先に妊娠させる(妊娠の「年功序列」)
  • 保育園等の年間スケジュールに合わせて出産(3月の年度末から産休を取って5月に出産すること:つまり7月か8月に「妊活」)

家族計画を職場の内々のルールで決めるというディストピアな世界が存在する、という驚愕の事例です。

同性間でもマタハラは成立します。
100%の避妊はありませんし、「妊娠の順番を守れよ」はさすがにマタハラです。「セックスするなよ」「そんなに好きなのか?」など言われた日には、加えてセクハラの重大事案になります(同性間であってもです)。

③人事→部下

ハラスメント「ご主人の会社、有名企業だよね。○○さんが働かなくても生活は余裕でしょう。色々大変だから一回辞めて家庭に入ったら?子育てもその方がしやすいし、生まれてくる赤ちゃんのためですよ」

夫の稼ぎが高いから専業主婦でいなさい、という価値観とともにその人を「厄介払い」したい会社の意図が伝わります。もちろん、妊娠、出産を契機に退職を迫るのですからマタハラです。

さらに言うと、親が子育てするのが大事ならば、産後は夫の方が育児休業を取るという選択肢があるはずです。有名企業ならばなおさら整備されているでしょう。「育児は女性の仕事」という昔の価値観が出ていて、やはりいい気持ちはしません。

マタハラ裁判

裁判

などに実際のマタハラ裁判事例が載っています。

1.日欧産業協力センター事件

有期雇用の女性社員(契約社員)が子どもの出産後に、産休を取った後に育休を申請スタが、企業が女性社員に対し育休の拒否と雇用の終了を言い渡した(契約しないよ。実質解雇)。女性社員は、雇用終了の無効と損害賠償請求を行なった。

<判決>

  • 育児休業を拒否したことは違法
  • 育児休業を契機とした雇用終了も違法で無効
  • 損害賠償としての慰謝料請求は棄却

2.Xファイナンス事件

ファイナンス会社に勤務していた女性社員が妊娠したところ、男性上司から「腹ボテ」、「胸が大きくなった」等のセクハラ、マタハラ発言を受けた。女性社員は男性上司に「けん責処分」を求める裁判を起こした事例。

<判決>

  • 男性上司の発言はセクハラに当たる
  • 会社は男性上司に対して始末書や減給などの「けん責処分」を行なった

3.出版社インド配属拒否解雇事件

出版社社員の女性が育休明けの復職時に会社から「インドへの転勤」もしくは「収入が大幅に下がる役職への転換」を提示されたそれを拒否したところ即解雇された事例。

<判決>

  • 解雇は無効
  • 女性社員へ慰謝料と未払い賃金の支払いを命じる
子育ての時間が必要な女性に対して、「インド転勤」を命じるということは「嫌なら辞めてもらって結構」というまった配慮のない嫌がらせだったと考えられます。
「収入が大幅に下がる役職への転換」と合わせてマタハラと言わざるを得ませんね。

マタハラに該当しないこと

これまで書いてきたことを見ると、会社は妊婦さんや出産した人へ「配慮」もできないのでは?と思われるかもしれません。
真面目な社員が体力的、体調的にきつくても言い出せず、その職場でがんばってしまうのは良くありません。

「不利益にならない配置転換」であればマタハラには該当せず問題ありません。
例えば、全国を飛び回る営業の人を内勤や総務に配置転換したり、高所や粉じんが舞う場所で監督する人をオフィス勤務にしたり、シフト制で夜勤がある看護師の人を日勤のみの勤務にするなどは、正当な配置転換、配力なるのでOKということですね。

その結果「営業手当」「危険手当」「夜勤手当」などがなくなっても、これは負荷がかかる勤務に対する危険手当ですから、それがなくなっただけですので月給などはそのままですよね。
これは不当な降格や減給にはなりません。

こういう裁判がありました。

JALマタハラ訴訟

飛行場

マタハラ訴訟 日航、客室乗務員と和解 東京地裁

・JALではCAの女性が妊娠すると飛行機の搭乗任務を禁止している
→これは正しい配慮で問題なし・代替の地上勤務が確保できないということで「無給の休職」を命じる
→これが「減給・賞与などの算定における不利益」に該当し違法、マタハラとされました。

妊婦さんに時差ボケや夜勤、不定休で身体への負荷も大きい搭乗をさせる方がマタハラというか「安全配慮義務」違反になるでしょうね。

これってマタハラになるの?

国会議員が発現して物議を醸した例です。これは専門家でもなかなか答えが見つからないようです。

上司→部下

怒る人

「君、うちに転職したばかりだよね。それなのに「産休」って・・・。妊娠しているとわかっていたのに、手当をもらうために転職したのか?採用に相当コストがかかっているんだよ。」

最後に「何もしない人を食わせる余裕はないんだよ・・」という一文があれば「お前に食わせる飯はない」ということでハラスメントになりますが、これがなかった場合、上司に同情する声も多く、議論が沸騰しています。

みなさんはどうお考えでしょうか?

マタハラを受けて困っているときの相談先

相談窓口

もし、みなさんが「マタハラでは?」という言動や処遇を受けてしまった場合、どこに相談すればいいのでしょうか?具体的な期間を紹介します。

1.会社の相談窓口

人事からマタハラを受けた場合は難しいかもしれませんが、直属の上司レベルであれば、人事や総務が開設している相談窓口に言うのが一義的に正しいです。

訴訟を起こすばかりがマタハラの解決ではありません。社内で解決できればいちばんいいですよね。

場合によっては産業医にも相談し(診断してもらい)、診断書を書いてもらうといいでしょう。
産業医がダメといっていることをやらせる上司はさすがにいないはずですよね。

2.会社と提携しているメンタルヘルス相談機関

会社によっては「EAP」(従業員支援プログラム)など外部の提携相談機関を持っている場合があります。
まさに相談機関に相談すべき事例であり、匿名性も守られますので一度相談してみるのも悪くないかもしれません。

ただし、訴訟など具体的行動のアドバイスは得られないかもしれません。

3.女性にやさしい職場づくり相談窓口

厚生労働省の委託によって運営されているサイトで、母性健康管理に関する一般的な情報提供します。
産業医、産婦人科医、社会保険労務士などがメールに回答しますが、個別具体的なアドバイスはしません。
「きっかけ作り」のためのサイトで、具体的な行動は別の機関に相談することになります。

4.都道府県労働局雇用環境・均等部(室)

公的なマタハラ相談窓口がこちらです。マタハラやセクハラについて相談でき、悪質だと判断すれば、問題解決のための調停やあっせんを行う機能もあります。ここはおススメですね。

5.なんでも労働相談ダイヤル|連合

マタハラも労働問題ですから、労働相談ならば労働組合、ということで「連合」の相談窓口になります。

ここ以外にも地域の労働組合の相談窓口に電話やメールをする方法も有効です。

6.日本労働弁護団 女性のためのホットライン

労働問題を専門に扱う弁護士グループの相談窓口です。
経営者に厳しい姿勢で臨む弁護士たちですので、その「攻撃力」が期待できます。ただし、経営者側のウケは良くないため、差し違える覚悟が必要です。
最後の手段かもしれません。

7.労働問題に強い弁護士、社会保険労務士に相談

訴訟も覚悟して弁護士に相談するのもありです。
いきなり弁護士事務所に相談するのが嫌ならば、市町村の「無料弁護士相談」や「4」~「6」あたりで感触を探ってもいいでしょう。訴訟に至らなくても和解や調停を勝ち取ることも可能です。

降格や減給、解雇など職場の就業規則も絡むことであれば社会保険労務士にまず相談してもいいでしょう。
そこで問題点を洗い出して、解決は弁護士に依頼します。

その他「マタハラ 相談」などで検索するといくつかの窓口がヒットするはずですので、抱え込まずに是非とも相談してください。
ストレスは妊娠出産にとっては決していいものではありません。
辞めたいときには辞めるのも解決法ですが、そういう気持ちにさせられたとしたら立派なマタハラになります。

現実的なマタハラの解決法とは?

マタハラの解決方法

いきなり弁護士に相談して訴訟を起こすのもちょっと現実的ではないかもしれません。
現在進行形で妊娠しているのならば、出産が最も重要な目的になります。
いろいろ動くのは出産が終わってからでもいいかもしれません。

というわけで現実的な解決方法、対処法はこういう感じでいかがでしょうか?

①マタハラの証拠を集める

言われた、されたマタハラをメモしておきます。日時、場所、誰からなど。メールならばそれは印刷して保存。ICレコーダーに録音できるならばしておきましょう。証拠として持っておくだけで有利になります。

②マタハラで体調異常がったのか影響面も記録

ストレスを感じただけではなく、無理やりきつい仕事をさせられた時の体調などをメモしておきましょう。単なるハラスメントではなく、傷害や安全配慮義務違反に問えれば、改善される確率が高くなります。

③社内の窓口にまず相談

社内や提携機関に相談窓口がある場合、そちらにまず相談します。事を荒立てないという意味ではなく、社内の方が解決までの時間も早いからです。妊娠中の場合、解決が早い方が絶対いいですよね。

④社外は社内の後で相談

社内の窓口で相談してもダメな場合や、社長や人事がマタハラの元凶の場合、社内での解決が見込めないので外部機関に相談します。複数の機関に相談してもいいでしょう。

⑤最後は弁護士

最後は弁護士に相談し訴訟や調停に持ち込みます。マタハラはセクハラやパワハラ以上に、本人だけではなくお腹の赤ちゃんをも巻き込む重大なハラスメントです。下手をすれば命にかかわります。強気に出てもいいのではないでしょうか?

証拠を揃えて、社内→社外へ相談が現実的です。
「事を荒立てたくない」という見地ではなく、社内の方がハラスメントが解消されるのが早いというのをメリットにして、「現実的」と捉えましょう。

体調、母体最優先です。
出産後でも、体調が安定した後でも構いません。
命を大事にしてください。

仕事におけるマタハラまとめ

まとめ
  • マタハラとは「妊娠・出産・育児休業・介護休業などを理由とする解雇などの不利益な取扱い」及びセクハラ・パワハラ的言動を指す
  • マタハラに該当する行為は「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」で規定されていて、ハラスメントと同時に違法行為である
  • マタハラを受けたと思ったら証拠を記録しておく
  • まず社内や会社と提携している機関に相談、その後外部機関や弁護士に相談する
  • 妊婦さんに対する合理的な「配慮」と不合理な「不利益な取扱い」は違う
  • 妊婦さんの体調を気遣わずにそのままストレスや負荷がかかる仕事を会社がさせ続けるのもマタハラや「安全配慮義務違反」になる
  • 法律で産前産後の権利は守られているので安心して相談する
  • 裁判でマタハラ認定されるケースが続出している。法律はみなさんの味方である
  • マタハラ事例をあらかじめ知っておくことが大切
  • 何より母体と赤ちゃんが第一。出産最優先で産んでください