退職勧奨される人の理由と事例7選!退職勧告との違いも解説

退職推奨の事例7選

「退職推奨」「退職勧告」と聞くとみなさんどういうイメージをお持ちでしょうか?
「その人の能力がないから仕方ないんじゃないの?」

たして、能力的なもので辞めてもらおうとしているだけでしょうか?
仕事ができない人をやめさせる手段を会社がとっているだけなのでしょうか?

日本的な「和を乱す」「空気が読めない」「みんなと一緒ではない」人を排除する手段として、「退職推奨」や「退職勧告」を行っている可能性があります。

本記事では、【退職勧奨】「退職推奨」「退職勧告」への対処法と、解雇との違いなどについて具体例を交えながら解説します。

依願退職は↓で解説

【退職勧奨】「退職推奨」と「退職勧告」

退職推奨と退職勧告

まず、ここで取り上げる「退職推奨」と「退職勧奨」は基本的に同じ意味で、「会社から『辞めてくれないかなー』とそれとなく促されること」を意味します。
厳密に両者の違いはない、というのが答えです。

ただし、響きとしては

  • 退職勧奨:「やめた方が君のためになる」などより穏便に退職を奨める
  • 退職勧告:「やめてください」「君の能力では厳しいよ」など強い口調での退職の奨め

という感じではありますが、実際や法的にも両者は違わないというのが答えです。

どちらも

  1. 従業員に退職を促し
  2. 辞めることについて従業員が同意、納得したうえで
  3. 「自発的」に
  4. 退職届を出して辞める

ことを促すのが目的です。

会社都合退職ではなく自己都合退職、懲戒処分(懲戒免職)でも解雇でもない、穏便に辞めてもらうための方法です。
極めて日本的なのかもしれません。

退職勧奨と「解雇」との違い

解雇

使えない奴なら最初から解雇すればいいのではないか、と思うかもしれませんが、労働者(従業員)は法で守られていますから、解雇するためには条件が必要になります。

具体的には

  1. 法律で解雇禁止事項に該当しないこと
  2. 法律に則って解雇予告を行うこと
  3. 就業規則の解雇事由に該当していること
  4. 解雇に正当な理由があること
  5. 解雇の手順を守ること

社長の独断で解雇するようなブラック企業には、碌な就業規則がないかもしれません。
本当に使えない人で、会社の無断欠勤を繰り返していたり、まったくやる気がなかったり(他の同僚とコミュニケーションをまったく取らない)など、辞めさせる条件を満たせば、事前に予告をして、「解雇予告手当」(30日分以上の給料)を支払って辞めてもらうこともできますが、「退職勧奨」はそれとは違います。

  • なんとなく気に入らない
  • 仕事ができるがワンマンプレー
  • 社長が個人的に嫌い

など、法的に「解雇」できない人を辞めさせる方法として「退職勧奨」が行われます。

もちろん、そうではなく、本来なら解雇に相当するけど、今後のことを考え(履歴書に「解雇」と「自主退職」では全然転職先の印象が違う)、「自分から辞めた形にしてくれ」というケースや、懲戒解雇で本来ならば退職金も出ない人に「自分から辞めた形にすれば退職金は出るから(だからさっさと辞めてくれ)」と最後の温情をかけて退職推奨するケースもあります。

したがって
「退職勧奨」「退職勧告」=100%悪ではないことは注意してください。

ただし実際は解雇できない人を、追い込んで辞めさせる手段として使われることが多く、そういうケースに遭遇したらどうするべきか考えて行きましょう。

「退職強要」は明らかに違法、問題です

退職強要

「退職推奨」は「辞めた方がいいんじゃない」「あなたのためにも辞めた方が・・」という穏やかなニュアンスですが

「辞めなさい」「お前はいらない」、数人で取り囲んで「辞めろ!」と罵倒する、殴る蹴るの暴行を加える(これはさすがに暴行罪ですが)などより直接的な手段に出るのが「退職強要」です。

解雇の事由に引っかからない人を無理やり辞めさせることはできません(雇用契約はそれだけ効力が強いんです)。
だから、言葉の暴力や実際の暴力があればそれはもう犯罪になります。
ICレコーダーに録るなどして、関係機関に通報しましょう。

比較的新しい辞めさせ方「追い出し部屋」

追い出し部屋

10年くらい前からあるのが「追い出し部屋」です。
別に罵倒したり暴言を吐いたりするわけではなく、ほとんど仕事がない部屋に隔離して、社員としてのプライドや自尊心をズタズタにして(お前にさせる仕事はない!)、自発的に辞めさせる方向に仕向けます。

「環境型退職勧奨」ともいうべきものですが、不当に仕事をさせないのであれば一種のパワハラであり違法行為になります。

誰もが知っている大企業でも「追い出し部屋」はあるようで、「窓際族」として生きてきた人よりも、出世コースに乗っていたと思われる人がここに配属されると、効果てきめんで、プライドをズタズタにされて辞める、あるいは精神を病んでしまうケースがあります。

これも環境を使った「退職強要」なのかもしれません。

※追い出し部屋の一例
「追い出し部屋異動は不当」 アストラゼネカ社員が労働審判|日本経済新聞

「退職勧奨」を受けたらどうするべきか

実際に「退職推奨」らしきものを受けた場合、どうするべきなんでしょうか?考えてみます。

1.受け入れる

退職推奨を受け入れる

自分自身がこの会社で「厳しいな」と思っていた場合は、退職推奨を受け入れるのもありです。本当に納得がいく場合のみです。

要は「早期退職制度」のような感じなのですが、例えば退職金を上乗せしてもらえないか、残っている有休を全部消化して辞められないか、など可能な限り条件闘争してみましょう。

「解雇はできないけど辞めてほしい」のが会社の本音ですから、多少のお金の上乗せはしてくれる可能性があります。

退職推奨に納得できない場合は徹底抗戦することになります。
会社はもうあなたを見限っているわけで、どう考えても出世コースに乗ることはないでしょう。
窓際でもその会社に残るか、戦って賠償金を勝ち取って辞めるかになりますね。

2.徹底抗戦する

徹底抗戦する

退職勧奨は法に基づかない「退職の奨め」なので受け入れる義務はありません。徹底的に対抗します。

①ICレコーダーなどに保存
ICレコーダーを忍ばせて「どういうことですか?」と聞きましょう。暴言が録音できればGOODです。そのほかにも、退職勧奨について書いたメールは印刷して保存(データも保存)、経緯を時系列にまとめておくとよいでしょう。

②弁護士に相談
労働問題に強い弁護士に相談します。といっても知り合いはいないし、依頼料が高くなることもあるでしょうから、自治体や商工会議所の無料相談や、外部の労働組合の窓口を頼るといいです。

こういうことをする会社は、そもそも内部に労働組合がないことも多いですし、あっても御用組合です。
「経営者の犬」の組合幹部に話してもむしろ告げ口されるでしょう。

弁護士に相談後、おそらく弁護士名で退職推奨をやめるよう「内容証明付き郵便」を送ります。
これで経営者がビビッて退職推奨をやめるかもしれません。

③差止めの仮処分
それでもダメな場合は法的措置に出ます。
最終的な手段として、「差止めの仮処分」申請という方法を使います。
裁判所に「退職勧奨をストップさせましょう」という法的効果のある命令を出してもらいます。

④訴訟を起こす
仮処分申請が認められなかった場合、訴訟を提起することもできますが、仮処分が認められない段階では、みなさんの分が悪いかもしれません。弁護士と要相談ですね。

3.退職後の行動は?

退職届

すでに「退職勧奨」で退職してしまった人で、やはり納得できない場合、退職後でも「退職届の無効や取り消しを主張し、認められるケースがあります。

「自発的に退職届を出した」(自己都合退職)の格好になっていますが、退職推奨の段階で

  • 脅迫されたケース(暴行含む)
  • 詐欺に当たるケース

が認定されれば、退職届が無効になり復職できるかもしれません。
あとは「自己都合退職」から「会社都合退職」に変更させられれば、失業手当の受給などで有利になります。

辞めさせ方があまりにひどかった場合には「損害賠償請求」もできます。
実際に認められて賠償金が支払われた裁判もありますが、数千万円もらうことはできず数十万円がせいぜいです。
そういうことも可能だ、と頭に入れておいてください。

「退職勧奨」の事例7選

直接的な退職を促す発言

苦手な上司
「君には他に向いている仕事がある」
「君のことを思って退職を奨めている」
「今ならまだ転職して人生やり直しが可能だよ」

具体的に何がダメなのか使えず、辞めたほうがいい、辞めてほしいと伝える直球パターンです。

パワハラを利用

これは後述します。上司の立場を利用してできない仕事を振って退職に追い込んでいきます。

産業医との連携

これは筆者がやられました。産業医と人事課長、当時の上司はツーツーの中で、産業医はうつが悪化した私に対して

産業医
「○○さん(上司)は悪くない」
「○○さんほど君のことを思ってくれる人はいない」
「お前は甘えている」
「自殺されると困るからさっさと休職しろ」
「休職の診断書はいくらでも書いてやるぞ」

従業員のことなどみじんも考えない産業医(名前を書きたい)を許すことはできません。ここまでされたら病めますよね。

長時間、多数で辞めろと言う

パワハラ
上司からだけでもダメージが大きいのに、人事課全員、総務も交えてなど、寄ってたかって退職推奨をするパターンです。
ここまで来るとアヤシイ宗教のようです。

「信仰しないと罰が当たる」を「辞めないとひどい目に遭う」に変えると、まんま宗教勧誘、洗脳の構図です。
もちろん、長時間行って判断力を失わせていきます。

職場環境を変える

窓際族
「追い出し部屋」のパターンです。

自分のこれまでを否定する職場に配置することで、「不要な自分」という意識を強くさせて退職に追い込みます。

最近で言えばこのケースが該当しそうです。

相鉄HD・熟練バス運転手をスーパーなどへ出向…横浜地裁「合理性あり」会社側勝訴|弁護士ドットコム
□「辞めないならクビにする」

退職を受け入れる選択肢しか与えません。不当解雇とみなされるケースでも、解雇要件があるように企業側が説明をしていることが問題です。もちろん、そんな退職推奨は根拠がなく、退職の合意は無効とされるかもしれません。

退職勧告書を渡される

退職勧告書
「退職勧告書」で検索すると、予測検索候補に「文例」が出るくらい、退職勧告書による退職推奨は一般的なのでしょう。

証拠に残るわけですが、テンプレがある以上、突っ込まれない書き方もあるのだと思います。
もらってしまった場合は、下手にサインすると「同意」したとみなされる可能性があります。

すぐに押印、サインせずにしかるべき機関(弁護士や労働組合、社労士)などにそれをもって相談しにいってください。

「退職勧奨」されるときの問題点

いくつか退職推奨に関わる問題点を洗い出してみました。

自己都合、会社都合による失業手当の違い

ハローワーク
自発的に退職させるわけですから、「自己都合退職」になります。これは問題で、自己都合退職だと失業保険の受給期間が「会社都合退職」よりも少ないケースがあり、また実際に失業手当をもらえるまでに三か月の「受給制限期間」があります(会社都合退職の場合受給制限期間はない)。

会社に辞めさせられたのに、すぐに失業保険がもらえないという不合理な状況に陥ってしまいます。

離職票に記載されている退職理由も「自己都合」になっているため、ハローワークに状況を訴えても聞き入れられず、自分で辞めたものとして手続きが進んでしまいます。

履歴書への記載

履歴書
これも「自己都合退職」になります。
転職活動の際、「自分で辞めた人」と「会社に辞めさせられた人」ではケースバイケースで有利不利が変わりますので、どちらが有利とは一概に言えません。

ただ、退職推奨されたことを上手に伝えないと「使えない奴」と判断されるでしょう。
本来はする必要がなかった転職ですからね。

退職金はもらえる

退職金
解雇せずに「辞めてくれ」ということですから、退職金はもらえるはずです。
本来懲戒解雇(退職金が出ない)に相当することをしてしまったのが事実ならば、「会社の温情」として退職推奨を提示するかもしれません。その場合は受け入れるのもありですが、懲戒事由に当たらない場合は戦うべきでしょう。

実質「早期退職制度」(退職金が増額される)の年齢になっている人は、ご自身の今後を良く考えて判断してください。「渡りに船」のケースもないとは言えません。

「退職勧奨」とパワハラ

退職勧奨の時点でパワハラでは?と思うかもしれませんが、単に
「能力的に続かないからやめた方がいいのでは?」
と遠回しに言われるだけではパワハラとは言えません。

退職推奨がパワハラとなるためには、厚生労働省が規定している「職場のパワーハラスメントの6類型」のいずれかに該当する退職勧奨、退職勧告であることが必要になります。

職場のパワーハラスメントについて|厚生労働省

厚労省HPより引用

1)身体的な攻撃
暴行・傷害

2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言

3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視

4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害

5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること

  • できるキャパを超えた仕事の無茶振りは4)
  • 追い出し部屋は5)
  • 集団での無視は3)
  • 上司の暴言は2)

になります。

某格闘ゲームの「くにへ かえるんだな おまえにも かぞくがいるだろう・・・」は「6)」で、十分退職推奨になり得るパワハラ言質になります。

辞める場合も「自己都合」には抵抗しよう

離職票

もし退職勧奨に従って辞めることを決意しても(これ以上抵抗しても無駄だと思っても)、離職票には「自己都合退職」ではなく「会社都合退職」にするよう迫るべきです。

だって会社の都合で退職を奨められるわけで、それでも脅してくるのであれば、脅迫など弁護士に入ってもらい解決しなければなりません。

最後まで会社に負けっぱなしではなく、ここだけは強気に出てみましょう。
例外は自分が懲戒免職されることをしてしまい、温情で退職推奨された場合(この場合自己都合)のみだといえます。

退職の際の有利度は

  1. 会社都合退職
  2. 自己都合退職
  3. 解雇(懲戒)

ということを憶えておきましょう。

退職勧奨・退職勧告のポイント

  • 退職勧奨=退職勧告で同じ意味
  • 解雇は(条件を満たせば)会社が一方的に出来るが、退職推奨で退職はさせられない
  • 退職推奨を拒否することができる
  • 退職勧告書へのサイン、捺印はすぐにはしない
  • 退職推奨はパワハラの形式で行われやすい
  • ICレコーダーやメールの保存などで違法行為(退職強要)の証拠をそろえる
  • 弁護士や関連機関と相談する
  • よほどの理由がある場合以外「会社都合退職」を勝ち取ること。離職票を確認する