
「辞めたい気持ちは固まっているけれど、園長にどう切り出せばいいのか分からない」「子どもや保護者にはいつ、何と言えばいいの?」。保育士の退職には、ほかの仕事にはない悩みがついて回りますよね。
結論から言うと、保育士が円満退職するコツは「年度末に合わせる」「2か月前までに口頭で伝える」「退職理由は前向きに言い換える」の3つです。この記事では、園長・同僚・子ども・保護者それぞれへの伝え方と、辞める前に済ませておきたい手続きまでをまとめました。


保育士の退職理由で多いのは?データで見る「辞めたくなる瞬間」
まずは、ほかの保育士がどんな理由で辞めているのかを見ておきましょう。自分の理由が特別ではないと分かるだけでも、少し気が楽になります。
東京都が保育士登録者に行った「東京都保育士実態調査」では、過去に保育士として働いていた人の退職理由(複数回答)の上位は次のとおりでした。
| 順位 | 退職理由 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 職場の人間関係 | 31.5% |
| 2位 | 仕事量が多い | 23.1% |
| 3位 | 給料が安い | 22.1% |
| 4位 | 健康上の理由 | 20.6% |
人間関係が1位、次いで仕事量と給料です。一方で、今働いている保育士の78.7%は「今後も保育士として働き続けたい」と答えています。仕事そのものは好きだけれど、今の職場がつらい。そんな人が多いことが分かります。
保育士の求人は今も多く、こども家庭庁の資料によると2025年7月の保育士の有効求人倍率は2.77倍(全職種平均は1.18倍)、東京都では4.28倍です。つまり、辞めたあとの働き口に困る状況ではありません。だからこそ、焦らずに「辞め方」を整えてから動きましょう。
保育士が円満退職する4つのポイント
1. 退職理由は前向きな言葉に言い換える

円満退職でいちばん大事なのが退職理由の伝え方です。本当の理由が人間関係や給料への不満だったとしても、それをそのままぶつけると、退職日まで気まずい日々が続きます。
たとえば次のように言い換えると、角が立ちません。
| 本当の理由 | 伝え方の例 |
|---|---|
| 人間関係がつらい | 「新しい環境で、自分の保育を見直したい」 |
| 給料が低い | 「将来を考えて、働き方を変えたい」 |
| 仕事量が多すぎる | 「体調を整えながら長く働ける環境を探したい」 |
| 結婚・出産・介護 | そのまま伝えてOK(おめでたい話や家庭の事情は理解されやすい) |
ただし、嘘の理由を作るのはやめましょう。「実家に帰る」と言ったのに近所の園で働いていた、といった話はすぐに伝わります。本当のことを、相手を責めない言い方にするのがコツです。
逆に、「待遇が改善されるなら残ってもいい」と思っているなら、本音を伝えてみる価値はあります。保育士不足の今、園側が条件を見直してくれることもあります。絶対に辞めると決めているなら、その意思をはっきり伝えてください。あいまいにすると、何度も引き止められて疲れてしまいます。
2. 退職の時期は年度末(3月末)に合わせるのが基本
法律上は、期間の定めのない雇用なら、退職を申し出てから2週間で辞められます(民法627条)。契約期間が決まっている場合は、やむを得ない事由がない限り、原則として途中では辞められません(民法628条)。
とはいえ、保育士は担任を持っていることが多く、年度の途中で抜けると配置基準の人数が足りなくなる園もあります。2024年度から配置基準は4・5歳児が25人に1人、3歳児が15人に1人と手厚くなりましたが、その分、1人欠けたときの影響も大きくなりました。
そのため、急ぐ事情がなければ年度末の3月末退職に合わせるのが、いちばん迷惑をかけない辞め方です。


3. 伝えるタイミングは2か月前まで。遅くとも1か月前
円満退職には、引き継ぎの時間が欠かせません。クラスの子どもたちの様子、保護者との関係、担当している行事や書類。これを2週間で引き継ぐのは、現実的ではないですよね。
目安は次のとおりです。
- 年度末に辞めるなら、12月〜1月中に伝える(多くの園が次年度の職員配置を1〜2月に決めるため)
- 年度途中なら、最低でも1か月前。できれば2か月前
- 就業規則に「退職は〇か月前までに申し出ること」とあれば、その期日を守る
就業規則の期日と法律の2週間が食い違うことがありますが、円満退職を目指すなら就業規則に合わせておくのが無難です。
4. まずは口頭で、園長か直属の上司に伝える
いきなり退職届を机に置くのはNGです。「話し合うつもりはない」という意思表示に受け取られ、関係がこじれやすくなります。
流れはこうです。
- 園長(または主任などの直属の上司)に「お話ししたいことがあります」と時間をもらう
- 退職の意思と時期、理由を口頭で伝える
- 合意できたら、園の指示に従って退職届(または退職願)を提出する
- 引き継ぎの計画を上司と決める
「退職願」は辞めたいというお願いで、受理されるまでは撤回できます。「退職届」は辞めるという届出で、原則として撤回できません。園によって書式が決まっていることもあるので、提出前に確認しておきましょう。
同僚への伝え方|タイミングと言い方

伝えるのは園長と引き継ぎの段取りが決まってから
仲のいい同僚には先に話したくなりますが、順番は園長→主任→同僚です。人事は園の運営に関わることなので、園長より先に周囲に広まると、園長の立場がなくなってしまいます。
引き継ぎの段取りが決まる前に伝えると、「じゃあ〇〇の担当は誰がやるの?」と現場が混乱します。園長から「職員会議で伝えます」「〇日に発表します」と言われたら、それまでは胸にしまっておきましょう。
同僚には不満を言わない
同僚に理由を聞かれたら、おめでたい話や家庭の事情ならそのまま話して構いません。ネガティブな理由のときは「いろいろ考えて決めました」程度で十分です。
残って働き続ける同僚に職場の不満を聞かせると、相手の気持ちまで沈んでしまいます。同じ不満を持っている人がいれば、退職が連鎖して園がさらに大変になることもあります。
苦手な人にも「お世話になりました」だけは言う
退職理由がその人との関係だったとしても、最終日の挨拶だけはきちんとしておきましょう。無視するような形になると、残りの期間の引き継ぎがやりにくくなります。うわべだけでも「お世話になりました」と言っておけば、あとで思い出したときにも気持ちがすっきりします。
子どもへの伝え方|不安にさせない別れ方
先に園長に相談する
子どもに退職を伝えるかどうか、いつ伝えるかは、園の方針があります。保護者への説明と足並みをそろえる必要もあるので、勝手に話さず、必ず園長に相談してから決めてください。
「いなくなる」ではなく「応援している」を伝える
子どもにとって担任の先生は、毎日必ずそこにいてくれる大切な存在です。だからこそ、「辞める」「いなくなる」という部分を強調すると、年長さんでも不安になります。
伝えるときは、次のような言葉がおすすめです。
- 「先生は遠くでお仕事をすることになったけど、みんなのことをずっと応援しているよ」
- 「みんなが大きくなるのを楽しみにしているね」
- 「次の先生と、たくさん楽しいことをしてね」
難しい言い回しは避けて、ゆっくり、短い言葉で。お別れ会や手紙など、園の慣習があればそれに合わせましょう。
保護者への伝え方|お礼と後任の説明をセットで
保護者には、子どもからの又聞きで伝わる前に、園として正式に知らせるのが基本です。園だよりやおたより、連絡アプリでの告知、送迎時の挨拶など、園の方針に合わせてください。
伝える内容は次の3つで十分です。
- 退職すること(時期)
- お子さんを預からせてもらったことへの感謝
- 後任の先生や、今後の体制(園長から説明がある場合はそれに合わせる)
退職理由を詳しく話す必要はありません。園への不満を保護者に話すと、「この園、大丈夫?」と不安をあおるだけです。
辞める前に済ませておきたい手続きと確認


- 有給休暇の残日数を確認し、引き継ぎと相談しながら消化する(退職後は使えません)
- 離職票・源泉徴収票・雇用保険被保険者証・年金手帳(基礎年金番号通知書)を受け取る。源泉徴収票は退職後1か月以内に交付されるのが原則です
- 次の職場が決まっていないなら、失業給付の手続きをハローワークで。自己都合退職の給付制限は、2025年4月から原則1か月に短縮されています(待期7日は別)
- 健康保険は「任意継続」「国民健康保険」「家族の扶養」のどれにするか決めておく
- 園から借りているエプロン・名札・鍵・書類などを返す。私物(絵本、教材、CDなど)は早めに持ち帰る
- 担当していた書類(指導計画、児童票、連絡帳のまとめ)を整理し、引き継ぎメモを残す
円満退職までのスケジュール例(年度末退職の場合)
| 時期 | やること |
|---|---|
| 11月〜12月 | 退職を決める。就業規則で申し出の期日を確認。転職先を探し始める |
| 12月〜1月上旬 | 園長に口頭で伝える。退職日と引き継ぎの段取りを相談 |
| 1月中 | 退職届を提出。職員への発表は園長の指示に合わせる |
| 2月 | 引き継ぎ資料の作成。後任が決まれば一緒にクラスに入る |
| 3月上旬 | 保護者への告知(園の方針に合わせる)。有給の消化計画 |
| 3月下旬 | 子どもたちへのお別れ。備品返却、書類の受け取り確認 |
| 4月以降 | 離職票が届いたらハローワークへ。健康保険・年金の切り替え |
こんなときはどうする?保育士の退職でよくある3つのケース(架空の例)
ここからは架空のケースで、対応の考え方を紹介します。
ケース1:「人が足りないから」と退職を認めてもらえない
架空のAさん(26歳・3歳児担任)は、12月に園長へ退職を申し出ましたが、「来年度の人が見つかるまで待ってほしい」と言われました。
退職は労働者の権利です。期間の定めのない雇用なら、申し出から2週間で辞められます。とはいえ、いきなり法律を持ち出すと角が立つので、「〇月〇日までは責任を持って引き継ぎます。それ以降は難しいです」と期限を区切って伝えるのが現実的です。それでも認めてもらえないときは、退職届を内容証明で送る、労働基準監督署や都道府県の労働相談窓口に相談するといった方法があります。
ケース2:年度途中だけど体調が限界
架空のBさん(30歳・5歳児担任)は、夏ごろから眠れない日が続き、医師から休養をすすめられました。
この場合、年度末まで待つ必要はありません。まずは診断書をもとに休職を相談し、回復が見込めなければ退職を伝えます。体調が理由の退職は、園側も引き止めにくいものです。ハローワークでの手続きの際は、医師の意見書などがあれば「正当な理由のある自己都合退職」として扱われ、給付制限がかからないこともあります。
ケース3:同僚にだけ先に話してしまい、園長の耳に入った
架空のCさん(24歳・2年目)は、仲のいい同期に「来年辞めようと思う」と話したところ、園長に伝わってしまいました。
起きてしまったことは仕方ありません。早めに園長へ「順番が前後してしまい申し訳ありません」と自分から話しに行きましょう。黙っていると「隠していた」と受け取られ、残りの期間が気まずくなります。
保育士の円満退職に関するよくある質問
退職の申し出は、口頭だけでも有効ですか?
法律上は口頭でも有効です。ただし、「言った・言わない」のトラブルを避けるため、口頭で合意したあとに退職届を出しておくのが安心です。
ボーナスをもらってから辞めても大丈夫?
支給日に在籍していれば、受け取ってから退職しても問題ありません。就業規則に支給日在籍の条件が書かれていることが多いので、退職日との関係を確認しておきましょう。
退職理由を園長にしつこく聞かれます
「一身上の都合」で通して構いません。どうしても聞かれるなら、「自分の保育を見つめ直したい」「働き方を変えたい」など、前向きな言葉を1つ用意しておくと楽です。
退職後に保育士として働きたい場合、どこで探せばいい?
ハローワークのほか、各都道府県にある「保育士・保育所支援センター」でも相談や求人紹介を受けられます。保育士の有効求人倍率は全職種の2倍以上なので、条件を絞って探しても十分に見つかります。
保育士の円満退職の方法と退職理由の伝え方まとめ
保育士が円満退職するためのポイントを、もう一度まとめます。
- 退職理由は本当のことを、相手を責めない前向きな言葉で伝える
- 急ぐ事情がなければ年度末退職。体調やハラスメントなどの事情なら途中でもよい
- 伝えるのは2か月前まで。まず園長に口頭で、その後に退職届
- 同僚・子ども・保護者への伝え方は、園長と相談して順番を決める
- 有給、離職票、源泉徴収票、健康保険の切り替えを忘れずに
保育士不足が続く中での退職は、どんなに気をつかっても多少のしこりが残ることがあります。それでも、時期と伝え方を守って引き継ぎをきちんと行えば、気持ちよく次の一歩を踏み出せます。あなたの保育を必要としている園は、ほかにもたくさんありますよ。