【図解】高度プロフェッショナル制度の対象と年収などを具体例を用いて解説

高度プロフェッショナル制度を解説

「働き方改革」関連法の内容が、いよいよ2019年4月から順次スタートしました。残業規制や有給休暇の強制付与など「休み方」について、様々な改革がなされますがそれだけではありません。

残業は就業時間が決まっているから発生するものですよね。今回紹介する「高度プロフェッショナル制度」は、こうした就業時間、勤務時間の枠から解放し、自分に合った時間に自分流で働けるようになる制度です。

メリット、デメリット等ありますので、しっかり覚えておきましょう。現在、対象者は非常に少ないのですが、将来的には適用範囲が拡大して、みなさんも働き方として考えなければならなくなるかもしれません。ここで確実に制度概要を知りましょう。

高度プロフェッショナル制度を知るメリットはこれ!

  • かなり対象が限定された制度であることを知ります
  • 趣旨どおりの運用がなされれば「働き方改革」になることを知ります
  • メリット、デメリットを自分のこととして知ってください
  • なぜなら、限定された範囲が拡大される可能性があるからです
  • 似た制度「裁量労働制」「名ばかり管理職」との違いを知ります

高度プロフェッショナル制度の概要

高度プロフェッショナル制度の概要

「高度プロフェッショナル制度」とは、2019年4月から実施されている新しい働き方です。
高度な専門知識を有し一定水準以上の年収を得る労働者について、労働基準法に定める労働時間規制の対象から外す制度です。

つまり

  • 勤務時間、労働時間
    1日○時間の規定がない
  • 休憩
    1時間等の規定がない
  • 休日
    土日休みなどの規定がない
  • 残業、深夜の割り増し
    残業という概念がないので残業代はゼロになる

こういう制度です。

好きな時間に来て、好きな時間に帰り、結果さえ出せば週1日数時間だけ出勤してもOK。勤怠による評価ではなく、成果物の質で評価されます。

つまり、会社員というよりも、個人事業主、フリーランスのように結果さえ出せばそれでOK、という働き方です。

勤務時間が決まっていないのですから、残業という概念もありません。深夜に残って仕事をしても、朝まで働いていても残業代は1円ももらえません。もちろん、朝9時~深夜0時までの勤務を1か月続けても残業代はありません。

本当に高いスキルを有していて、自分のやり方で結果を出す人にとっては、勤務時間にとらわれず自分のスタイルで働けるのでいいのですが、自分で仕事をコントロールできない人が適用になると地獄を見ます。そのあたりは後述します。

高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説 – 厚生労働省

高度プロフェッショナル制度は誰に適用されるのか

高度プロフェッショナル制度

この制度を適用して働けるのは一定の基準を満たした人のみになります

1.適用対象業種

(今のところ)以下の業種の人のみです。
対象となる業種は以下の通りです。

  • 研究開発
  • アナリスト
  • コンサルタント
  • 金融商品のディーラー
  • 金融業品の開発

2.適用可能年収

高度プロフェッショナル制度には年収要件があり、年収1075万円以上の人のみに適用できます。コンサルタントでも、年収900万円の人は、これまで通り、労働時間や残業代のある世界で働くことになります。

3.本人の同意

高度プロフェッショナル制度を適用するためには、この制度で働くことの同意を本人から署名で取らないといけません。

残業代を払いたくないから、会社が「あなたは年収1100万円だから高度プロフェッショナル制度適用です」とは言えないということです。

また、同意後も、本人が申し出れば高度プロフェッショナル制度の適用を撤回して、元の勤務時間や残業代のある働き方に戻すことができます。

4.労使委員会の決議

使用者(経営者)側から一方的な押し付けにならないよう、高度プロフェッショナル制度導入の際には「労使委員会」を作り、そこで決議をして賛成多数になる必要があります。ざっくりわかりやすく言うと、労働組合等の支持も必要だということです。

「3」「4」を合わせると、以下のような流れが必要になります。

5.休日の確保

いくら好きな時間に来て好きなだけ働いてもいいと言っても、ワーカーホリックでは困ります。

「年間104日以上、かつ4週4日以上の休日」は必ず確保しなければいけません。まったく出社せず完全オフの日を設定する必要があります。

6.健康管理時間の把握

労働時間、勤務時間の適用から外されますが、実際にどのくらい働いたかどうかを会社が把握します。

  • 社内で働いていた時間はタイムカードやパソコンの履歴等
  • 社外(自宅等)で働いた時間は書面等

によって実労働時間を把握しなければいけません。
あまりにこの時間が多いならば「働きすぎ」で健康を害してしまうからです。

「社内での労働時間」+「社外で働いていた時間」=「健康管理時間」と言います。

実労働時間が、一定時間を超えた場合、残業が多い人のケースと同様に、産業医と面談をする義務があります。

7.選択的措置の実施

高度プロフェッショナル制度で働く人の健康をさらに担保するために、以下の4つの項目のうちいずれかを実施しなければなりません。もちろん、2つ以上、4項目全部でもOKです。

  1. 勤務時間インターバル制度
    前の勤務終了から次の勤務開始まで、11時間のインターバルを置かなければなりません。つまり、夜22時まで働いた場合、次の日出勤して仕事が開始できるのは朝9時になります。
  2. 健康管理時間の上限設定
    健康管理時間に上限を設定します。1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合、超えた部分が、1か月100時間および3か月で240時間とします。つまり、1日8時間労働の人の場合、労働時間が40時間を超えた部分が1か月で100時間、つまり残業100時間に相当します。実質的な残業時間規制になります。
  3. 2週間連続の休日
    普通の人はなかなか取れないですが、高度プロフェッショナル制度が適用される人に鋭気を養ってもらうため(かつしっかり休んでもらうため)、1年に1回2週間連続した休みの取得を義務付けます。
  4. 臨時の健康診断
    「6」で書いた産業医との面談とは別に、より低い条件(健康管理時間のうち週40時間を超えたものが1か月80時間、つまり「残業80時間」)で健康診断や産業医との面談を義務付けます。

以上をまとめると、高度プロフェッショナル制度の導入はこれだけの条件を満たさないといけないのです。

長時間労働を抑制するために、かなり積極的に措置を講じないとこの制度が適用できなくなっていると言ってよいでしょう。会社側から無理やり適用させられる余地を極力排している感じです。

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度のメリット

ワークライフバランスが実現する

好きな時に来て、好きな時に帰り、時間に拘束されないので、自分らしい働き方、自分が好きな働き方ができます。

子どもの学校行事に堂々と行っても周囲からは何も言われませんし、早上がりして映画を観に行ったり、平日昼のイベントに行ったりすることも可能です。

成果を出しさえすれば、どういうやり方でも構いません。

仕事の生産性が向上する

だらだら残業しても残業代は1円も出ないわけで、知らない間にメリハリがついた働き方、つまり生産性が高くなるでしょう。
効率的に自分でコスパの良い働き方が生み出されていくはずです。

仕事時間ではなく仕事の成果で評価される

労働時間の概念がなくなるので「たくさん働いたから」ではなく、「どういう仕事をしたのか」仕事の成果で評価されるようになります。

高度プロフェッショナル制度の原則で言えば、1日2時間しか出勤しなくても結果さえ出せばそれでよく、長時間働く必要はまったくありません。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

高度プロフェッショナル制度のデメリット

残業代ゼロになる

いくら働いても1円も残業代が出なくなります。
結果を出せない場合、超長時間残業をしてでも仕事をしなければならず、それに対する報酬はゼロです。

「定額働かせ放題」と揶揄する声があるように、80時間残業しても、120時間残業しても、それは合法であり、残業規制もなく「健康管理時間の把握」をしなければ、それはひどいことになります。

まったく休めない!?24時間働いても「合法」

勤務時間の概念がないだけでなく、法的に規定されている休日は「年間104日以上、かつ4週4日以上の休日」のみです。

つまり、ある月において、4日だけ休みを与え、残りすべて24時間労働をしても違法にはならないのです(実際にそんなことをできる人はいないでしょうが・・)。

会社に泊まり込みで何日も徹夜を強いられる「デスマーチ」が合法化されてしまいます。

「自発的意思による同意」の強要

上で書いたように、高度プロフェッショナル制度で働くためには「本人による署名の同意」が必要になります。本人が納得、了解しないとこの制度で働けないはずですが、日本の企業社会の同調圧力や場の空気を読むことを強制され、結局不本意ながら高度プロフェッショナル制度に同意のサインをしてしまうケースがありそうです。

会社から高度プロフェッショナル制度の適用を迫られた場合、拒否できますか?実際は署名するしか選択肢がないように思えます。

これらのメリットとデメリットを総合的に勘案しなければなりませんが、該当している人が自分で選べるのかどうか、日本では難しいかもしれません(会社から強制される)。

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

自分で裁量をもって働くことができる制度には「裁量労働制」があります。こちらは広く適用されていますが、違いはあるのでしょうか?どちらも、労働時間ではなく、成果物で評価するという共通点があります。

両制度の違いは今の通りです。

1.残業代の有無

裁量労働制

実は、裁量労働制の場合「みなし労働時間」があり、それを超えた部分については残業代が支給されます。また、深夜残業をした場合は「深夜割増」(1.5倍)の賃金が支給されるのです。

高度プロフェッショナル制度

一方、高度プロフェッショナル制度は、労働時間の概念がない制度ですから、何十時間残業しても残業代は1円も出ません。

ところが、企業の中には「裁量労働制は残業代を一切払わなくてもいい制度」と誤訳(あるいはわざと)しているところがあり、「裁量労働制=残業代なし」というイメージが形成されています。

2.対象業種、年収

高度プロフェッショナル制度

上で書いたように、高度プロフェッショナル制度は適用できる人の仕事と年収が決まっています。

裁量労働制

一方、裁量労働制はそれよりも適用範囲が広く、研究開発や出版のための取材、編集、システムコンサルタント、公認会計士や弁護士などのサムライ資格、証券アナリストなど19業務、さらに、企業の本社などにおける企画、立案、調査および分析を行う仕事をしている人にも適用されます。

高度プロフェッショナル制度は本当に限定された制度になっています。

3.労働基準法の適用の有無

裁量労働制

裁量労働制は労働基準法の適用範囲内での「柔軟な働き方」の制度です。

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度は労働基準法の適用を外れます。

つまり「労働者」ではない何か新しい身分に置かれると思ってください。労働基準法の適用範囲外なので、同法が規定する労働時間や休日の規定は適用されません。予想以上に高度プロフェッショナル制度が適用された人は法に守られなくなります。

労働者と個人事業主の中間のような立場に置かれることになりそうで、自分の身は自分で守らないといけないようです。

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の比較を表にしてみました。

裁量労働制高度プロフェッショナル制度
対象広い狭い
年収要件なし年収1075万円以上
労働時間×
休憩×
法定休日×
残業代×
深夜割増×
休日割増×
有給休暇

高度プロフェッショナル制度と「名ばかり管理職」の違い

高度プロフェッショナル制度と「名ばかり管理職」の違い

もう1つ、残業代を払わずに済み、労働者を酷使するためにブラック企業が行っているのが「名ばかり管理職」です。

管理職(課長や部長)になると、残業代がなくなるのは広く知られていますが、これは、各部署を統括し、管理監督し、会社の経営に関与できる管理職でなければなりません。

しかし「管理職=残業代なしでいい」と拡大解釈され、部下がいない管理職や、実際は管理ではなくスタッフ仕事をしている「スタッフ管理職」が増産されています。

「○○調査役」「庶務課長」みたいな肩書がまさにそれです。

一応「幹部社員会議」のように「経営に参画した」というアリバイ作りをする会社もありますが、本来、広範な裁量があり、部下を従えて仕事をする人でないと、「残業代が出ない管理職」にしてはダメなんです。

ブラック企業ほど、「25歳で課長」などありえない人事をしますが、これは、さっさと「名ばかり管理職」にして残業代を支払わない口実にしています。

正直、残業代を払いたくないブラック企業ならば、高度プロフェッショナル制度よりも「名ばかり管理職」を乱発するはずです。

ただし、高度プロフェッショナル制度は管理職ではなく、バリバリ実務をこなすスタッフのための制度です。そのため管理職とスタッフという違いがありますし、ブラック企業ならばまず「名ばかり管理職」にされないかどうか注意する必要があります。

また、「名ばかり管理職」は社会的に批判され、適用しにくい空気が醸成されています。

  • 高度プロフェッショナル制度
    できたばかり、育てたい
  • 名ばかり管理職
    社会的批判、違法行為として認知、裁判になれば負ける

こうしたトレンドも意識しておきましょう。

問題提起~今後大きな労働者のリスクになるかもしれません

これまで書いてきたことをまとめると、高度プロフェッショナル制度は、「残業代なし」「定額働かせ放題」という批判があるものの、適用される人は年収1075万円以上の限られた職の人、この人たちだけにとどまるならば、別に関係ないという人が多いでしょう。
確かに年収1075万円以上で限られた職種ですから、自分には無関係な話だと思いますね

コンサルタントやアナリストとしてバリバリ働いている人ならば、むしろいろいろな労働規制の方がうざくて、大学教授のような働き方をしたい人もいるはず、だから高度プロフェッショナル制度は彼らのニーズに合っているかもしれませんよね。

しかし、大きな問題があります。以下多少の試験も交えて書きたいと思います。

高度プロフェッショナル制度適用のための

  • 年収1075万円以上
  • 仕事は「研究開発」「アナリスト」「コンサルタント」「金融商品のディーラー」「金融業品の開発」のみ

ということは実は法律に書いてないんです!

年収要件や対象職種は厚生労働省の「省令」で決まります。
今は上記のようになっていますが、省令なので、国会での法改正をせずに、いくらでも変更が可能なんです。

つまり、年収要件が大きく下がったり、対象職種が追加されたりする(しかも国会を無視して)可能性があります。

実は高度プロフェッショナル制度は10年以上前に「ホワイトカラーエグゼンプション」という名称で導入されかけたことがありました。やはり「残業代タダ法案」「働かせ放題法案」と批判されたわけですが、当時経団連では、この「ホワイトカラーエグゼンプション」について、今の高度プロフェッショナル制度の基準よりも大幅に広くして、「年収400万円以上のホワイトカラー全員」に適用させようと提言していました。

ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言|(社)日本経済団体連合会

読んでいただくとびっくりすると思います。

経団連(大企業の経営者)は労働者を奴隷以下の存在としか思っていないので、このような非人道的なことを平気で言えます。

高度プロフェッショナル制度についても導入の際には経団連の強い働きかけが政権にありました。

「労働者は使い捨て!」
「権利は与えない、義務だけ果たせ!」
「自己責任大好き!」
「利益は全部経営者のものだ!」
「お金オイシイブヒー」
というやつらの本音は消えていません。

つまり、今後、派遣労働が拡大しワーキングプア-が激増したように、プロフェッショナルではないのに「高度プロフェッショナル」と認定される人が増えて、残業代や休日の搾取、無限残業デスマーチが合法になる可能性があります。

かなり限定してスタートして高度プロフェッショナル制度ですが、こういう背景があること、旗振り役の考えは変わっていないことを絶対に忘れないでください。自分の身は自分で守らないと壊されてしまいます。

こういう発言をした厚生労働大臣もいました。

塩崎厚労相の失言が波紋 残業代ゼロ法案成立後の対象拡大を経済界と“約束”

もちろん、このような労働者が不利になる制度のバックには、死の奴隷商人、竹中平蔵がいることは言うまでもありません!

竹中平蔵パソナ会長、NHK番組で高度プロフェッショナル制度の拡大を力説→批判殺到

かなり熱くなってしまいましたが、本来の趣旨「能力がある人で高い収入を得ている人に自分のやり方で結果を出しやすくする」をはずれると、とんでもないことになりえる可能性があることは、みなさんぜひ知っておいてください。

「働き方改革」の結果、長時間労働が合法化された、なんてなったらシャレにもなりません。

高度プロフェッショナル制度の対象と年収などの解説 まとめ

高度プロフェッショナル制度まとめ

  • 高度プロフェッショナル制度は2019年4月からスタートした
  • 年収1075万円以上の特定の仕事をしている人を労働時間や休日の制限から外す制度
  • 労働時間が無くなるので「残業」「残業代」がない。残業代はゼロになる
  • 導入に当たっては労使協定や、本人の署名による同意が必須
  • 健康管理のための時間の把握や産業医との面談、2週間以上の休暇など傾向に配慮した措置を企業は取らなければならない
  • 本人が申し出れば同制度の適用撤回も可能
  • 裁量労働制や「名ばかり管理職」とは違うことに注意
  • 本来の趣旨通り運用されれば、働き方改革につながる
  • 適用年収や職種が法律ではなく厚生労働省の省令で決まるので「残業代タダ」が拡大されるおそれがある