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どんな創業メンバーと組むべきか
―信頼できるのは、リスクを一緒に背負った人だけ

 

普通に考えると、起業というものは失敗します。そんな状況下で、どのような人を信頼すればよいのでしょうか。そこで、今回は創業メンバーの話。倫理や感情を排して「もうける」という目的を共有でき、一心不乱に邁進できる人が望ましいことは前回でも述べたとおりですが、消極的な面では「裏切らない人間」であることが挙げられます。

起業をするときに集まるメンバーは、きっと個性豊かで、それぞれが固有の得意分野を持ち、「誰一人欠けてはいけない状況」のはずです。というよりも、そういうメンバーでなければ、起業する意味もありません。しかし、これは両刃の剣です。将来の夢や展望を語り合っているうちはまだしも、事業が軌道に乗り、あわよくば成功したとき、この「誰一人欠けてはいけない状況」を逆手にとれば、容易に裏切ることができるからです。

たとえば、自分のセクションで培ったコネクションを利用して自分の利益を追及するならまだかわいげのある方ですが、挙句の果てに自分が抜けたら会社が潰れかねないような状況で「会社を抜ける」と言い出して、慰留の為に金をせしめるというようなことは、ザラにあります。あなただって、それが出来る状況ならやるでしょう?

この点、「気の合う仲間と一緒に楽しい起業」はあまりおススメできません。信頼を担保するものが何もなく、モメごとが起こった時、ほぼ確実にビジネスと友情を混同した話を持ち出すからです。弾丸が飛び交っている戦場で今まさに前進するしかない状況下、「死にたくないからここに残る。故郷に身重の妻がいるんだ。俺たち友達なんだから、わかってくれるだろう」などと言い出す兵士が一人でもいれば、その部隊は全滅します。

また、創業期には「あわよくば」といった気持ちで利益にあずかろうと有象無象が寄ってたかって来るはずですが、起業はそんな生ぬるいものではありません。全身全霊、全力で戦って何とか食いつなげるかどうか、という世界です。起業にともなうリスクを一緒に背負ってくれる人。そして、その覚悟を口約束ではなく、実際の態度・行動で示してくれる人こそが創業メンバーに相応しいといえます。

どうやって裏切らせないか―「ザイル」を結ばせる

こうした裏切りを防ぐためにも、起業家はあらかじめ裏切りようのない組織や仕組みをつくっておかねばなりません。どれだけ未来に希望が満ち溢れ、皆が熱にうかされている創業期であっても、裏切り者が現れることを予測して手を打っておくような冷静さ、さらに言えば冷酷さが求められるのです。

「一緒にリスクを背負う」とは、「逃げられない」ということでもあります。たとえば、銀行融資を受ける際の連帯保証人に創業メンバー全員を連座させるという方法は有効でしょう。僕はよく、一緒にリスクを背負うことを、「ザイルを結ぶ」と表現します。誰かが落ちれば皆で引き上げる、さもなければ全員死ぬ。これは、「いざという時にお前だけ逃げられると思うなよ」、ということでもあります。そこでリスクを取りたくない、という人がいたなら、あくまで従業員や持ち株ナシの役員として参加させるべきです。同時に、こういう類の人間は抜けられて困るポジションにつけないようにしましょう。リスクなくしてリターンなし。こうした覚悟を持っている人だけが、起業という狂奔の中を進んでいけるのです。

スタートアップに民主主義は一切不要

僕も「2000万円の借金という授業料」で学びましたが、失敗する起業の原因は創業期にすでに胚胎しています。その一つに、各創業メンバーの立ち位置を明確にしておかなかった、ということが挙げられます。創業メンバーの中に、立ち上げた飲食店の店長を担当した人間がいました。彼は、料理や接客について芸術の域に達するといっても過言でないほどの突出した能力を持っていました。

しかし、彼は次第に我々経営側の方針や指示をことごとく無視するようになっていきます。任された飲食店を自分だけの聖域―というよりも、もはや独立国にしてしまったのです。コストカットを指示しても、「せっかく軌道に乗ったいま店のブランドを落とすわけにはいかない」と拒否。店で雇用した従業員やアルバイトが次々に不満を訴えて辞めていくなか、労働基準法における最低限のコンプライアンスを徹底するよう指示しても、「現実的でない」と拒否。とうとう、輸入した商品を販売するにあたっても十分な連携がとれず、これが一因となって事業は撤退に追い込まれました。

意見交換の場は何度ももうけられましたが、そのたびに彼は「創業時の俺たちは全員フラットな立場だったじゃないか」と繰り返しました。確かに創業時、僕たちは上下関係のない平等な立場で、出資者も交えて闊達に議論をしました。しかし、この「フラット」という抽象的な概念がそのままビジネスに持ち込まれると、これほど厄介なことはありません。なにせ、負っているリスクは決してフラットではないのですから。

そもそも、彼は任された飲食店を「自分の店」と勘違いしているふしがありました。言うまでもなく、この飲食店は会社の店です。そして、お店が営業を続けていけるのは出資者のお金のおかげです。また、もし店の従業員が過労死するようなことがあれば、責任を負うのは代取の僕です。だからこそ、彼が出資者や経営のトップである僕の指示に従ってお店を営業するのは当然です。しかし、彼はこうした事業の基本的な構造さえ、最後まで理解できていませんでした。事業が成功すれば利益は山分け、ということしか見えていなかったのです。

ハッキリ言います。会社に民主主義は必要ありません。ワンマンこそが理想です、特に創業期については。あなたはトップであり、どのような状況が起ころうとその権利を手放すべきではないのです。人間は気持ちが弱ると、ついつい民主主義に逃げたくなります。しかし、最初に決意してください、「俺は人間をやめる」と。そう、経営者は人間ではないのです。ヒトラーが人間ではなかったように、人間ではないのです。人間であってはいけないのです。

突出した人材はいけすで飼え

これは裏切りというよりも一種の暴走でしたが、一つのことに秀でた人間というのは、たいていの場合、他の能力が欠如しているものです。彼もそうでした。彼は決して代替のきかない人材だったからこそ創業メンバーに加わったわけですが、このとき彼と「ザイルを結ばずに」、その立ち位置を明確にしておかなかったのは僕の痛恨のミスでした。

ここで学んだのは、突出した能力を有する人間はアンコントローラブルになりがちであること、そして暴走を未然に防ぐための対策を講じなければならない、ということです。創業メンバーとしての利益に預かりたいのなら一緒にリスクを背負ってもらい、逃げられなくする。あるいは、仕組みやルールで縛るほかありません。いわば、「いけすで飼う」のです。

複雑な事業の構造を逐一説明して理解させずとも、シンプルに「これをしなければならない」「これをしたらダメ」というルールを定めておく。そして、遵守されなければ「こうしたペナルティがある」という最悪の場合を認知させておく。そうすれば、何か問題が起こったときに最後のカードとしてペナルティをちらつかせればよいのです。件の彼の場合、僕たちが使った最終手段は「全権限の剥奪、一社員への降格」でした。「いけすから出ようとしたら即刺身」といった気概で臨むのがよいでしょう。どれだけ優秀な人材がいたとしても、その能力以外を信頼してはならないのです。やはり、信頼できるのは一緒にザイルを結んでくれた人だけです。

社内に発生する北朝鮮

朝鮮民主主義共和国、いわゆる北朝鮮。あの国って本当にすごいですよね。複雑怪奇な世界情勢の中で、あれだけの劣悪な状況にありながら生き延びている。こういうことを言うと怒られそうですが、北朝鮮の為政者は本当に有能なのだと思います。

そういうわけで、社内に北朝鮮が発生することは非常によくあります。テポドンを搭載し、下手に崩すと難民が溢れ出して来る。社内ルールの通用しない独立国家が社内にポップしてしまうという最悪の事態は結構あり得ます。逆に言うとサラリーマンの皆さんは、うまいこと地上の楽園を社内に作り出すことを目的にしてもいいでしょう。わりと成功例はあります。

この社内北朝鮮、場合によっては大変おそろしく会社の本体そのものすら乗っ取ってしまうことがあります。これは某社のお話ですが、やさしく暖かな心を持った先代社長の下で社員が果てしなく増長し、利益率はどんどん下がり指揮系統は崩壊、その状態で世襲二代目体制に移譲されたものだからこれはもう大惨事としか言いようのないことになったそうです。会社というのは油断するとすぐハロウィンの渋谷になり、財務諸表がひっくり返ります。

社内北朝鮮は、往々にして経営者の「甘さ」から生まれます。人間を尊重してやりたい、独自性を生かしてあげたい、やりたいようにやらせてあげたい。そういった権力のポケットのような場所から、北朝鮮は芽を出します。これは社員100人とかの会社に限った話ではありません。5人もいたら当たり前に発生してくる事態です。

もちろんスタートアップにおいて部下の仕事を細かく監視するなんてことは不可能です。というか、細かく監視しなければ仕事が出来ないようなヤツをスタートアップに参戦させてはいけません。しかし、裁量をブン投げることと北朝鮮を発生させることは全く別のことなのです。そして、北朝鮮の発生が観測されたら即座に処断すること。これが一番大事です。これは、話し合いの余地など一切なく初手から飽和攻撃が基本中の基本です。僕はこれができなかったことを未だに悔い続けています。

某社の話に戻りますが、最近本物の男が経営トップとして雇われ、大粛清が行われたそうです。堕落したポンペイが神の怒りにふれ、火の山から降り注ぐマグマに呑み込まれた逸話を思い出しますね。

さぁ、皆さん気持ちの準備は出来たでしょうか。社内に北朝鮮が発生したら、即時飽和攻撃を仕掛けて灰も残さないという覚悟が出来たでしょうか。それならばあなたは大丈夫です。僕の踏んだ轍をあなたが踏まなくて済むように、心から祈っています。やっていきましょう!やっていくぞ!絶対に滅ぼすんだ!

\ 借金玉×ジョブシフト【第6回】 /

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 本が出て、作家の肩書がつきました。週刊プレイボーイ連載中です。 syakkindamaアット お仕事の依頼などはこちら。 コンサータは36ミリ飲んでます。ブログ↓